ホンダF1は、パワーユニットの性能を上げるためにF1以外の部門の助けを借りて技術開発を行っている。そのひとつが燃焼技術だ。現在のF1は決勝で使用できる燃料は重量110kg以下に定められており、レース中に給油することはできない。そのため、限られた燃料でできるだけ速く走るためには燃費とパワーを両立される効率のいいパワーユニットが必要となる。
2015年から始まったホンダのF1プロジェクトに最初から携わり、HRD Sakuraで燃焼を担当する高橋真嘉は「何が難しかったかというと、やはりF1の燃焼というのは、市販車のそれとは全然違う領域で使っているので、すべてを自分たちで学ばなければなりませんでした」と語る。「そこで燃費を上げるためには速い燃焼を実現することが大事になってきます」燃料を速く燃やすことは、燃費とパワーを両立させるための条件のひとつとなる。ホンダF1は、燃料を早く燃やすために燃焼室のかたちや燃焼方法を改良した。「我々の競争力をつける確信めいたものは持ちました」と高橋真嘉は語る。新しい燃焼方式をさらに生かすために燃料の変更までも検討された。ここでもF1以外の部門が力を発揮した。ホンダでCO2の削減に向けた未来の燃料を研究している先進技術研究所の橋本公太郎は、燃料の成分、ひとつひとつの燃焼反応を繰り返し検証。早くも燃える成分を見つけ出し、新たな配分を考案して、レッドブル・ホンダに燃料を供給するエクソンモービルに発注。新しい燃料はF1日本GPで投入された。「F1に関わって新しいことをやるのはすごく大変なんですけども、一方ですぐにレース結果が出る、役に立つことができる。そういう意味では良かったですし、会社のために役に立てると実感できる機会ではありますね」と橋本公太郎と語る。このようなホンダ社内の壁を取り払い、“ワンチーム”としてF1に取り組む体制を作り上げることに尽力したのが、HRD Sakura センター長を務める浅木泰昭だ。「実際に他の仕事を持ちながら兼任してやってくれている人の気持ちが必ずしも一致しない場合も多いじゃないですか。そこはすごく気を使いました」と浅木泰昭は語る。「心の底から助けてやろうと思ってもらうことはやりました。関係をどう作っていくかというのは私の仕事だと思います」