2026年F1レギュレーションで導入されたADUO(追加開発・アップグレード機会)をめぐり、元F1ドライバーのアンソニー・デビッドソンがFIAに警鐘を鳴らした。メルセデス製パワーユニットが開幕から優位に立つなか、ライバル陣営に開発機会を与える制度は競争均衡を目的とする一方で、運用を誤ればチーム側の“駆け引き”を誘発しかねない。
デビッドソンは、F1がBoP(性能調整)的な領域に踏み込むことへの危うさを指摘している。ADUOは“救済策”か、それとも性能調整かADUOは「Additional Development and Upgrade Opportunities」の略で、2026年F1レギュレーションに組み込まれた新たな制度だ。最も高性能なパワーユニットメーカーに対して一定以上の差があるメーカーに、追加の開発機会を認める仕組みとされている。開幕からメルセデス勢は好調で、ジョージ・ラッセルがオーストラリアGPを制し、キミ・アントネッリも中国GPと日本GPで連勝した。現時点でフェラーリがメルセデスの最も近い挑戦者とされるなか、ADUOによって差を縮める可能性が取り沙汰されている。しかし、デビッドソンはスカイスポーツF1の番組で、この制度が本来の目的を超えてしまうリスクを指摘した。「これがバランス・オブ・パフォーマンスになってしまうことは避けなければならないと思う。F1にそれが入り込む余地はないと思う。F1は、誰が最高のエンジニアで、誰がその状況の中で最も賢く資金を使えるかを競うべきものだ」「実質的には、それがコストキャップだ。F1におけるバランス・オブ・パフォーマンスはそれだ。全員が同じ資金の中で戦う。エンジニアリングチームが勝つべきだ」メルセデス優位の要因はICEだけではないデビッドソンは、2026年F1パワーユニットの性能差を単純にICEの出力差だけで判断することにも慎重な姿勢を示した。2026年F1パワーユニットでは、内燃エンジンだけでなく、電動モーター、バッテリー、エネルギー回生と放出の統合が大きな比重を占める。つまり、どのメーカーが劣っているのかを見極めるには、単なる最高出力だけでは不十分ということだ。「現時点では、メルセデスのパワーユニットが最も良い仕事をしているように見える。ただ、今年は複雑だ。電動モーター側と電気系、バッテリー統合のすべてが関わっているからだ」「だから、それはICEなのか。それとも電気系全体の統合なのか。馬力のほぼ半分を占める部分が、その優位性を与えているのかということだ」この指摘は、ADUOの判定が極めて難しいことを示している。どこに性能不足があり、どこまでを追加開発で補うべきなのかを誤れば、制度は救済策ではなく競争順を人為的に動かす仕組みになりかねない。チームの“サンドバッグ”を誘発する危険性デビッドソンが最も強く警戒したのは、チームがADUOを得るために意図的に実力を隠す可能性だ。「ここで危険な道に進むことになる可能性がある。チームが飛び上がって『ここで少し性能向上が必要だ』と言い出すかもしれない。あなたが言うように、その性能向上を得るためにサンドバッグをするかもしれない」「これは極めて慎重に扱わなければならない。そうでなければ、世界中の多くのカテゴリーで見られるような状況になってしまう。そこにはバランス・オブ・パフォーマンスがあり、駆け引きが行われる」F1は伝統的に、技術競争そのものを競技の中心に置いてきた。ADUOがその理念を補完する制度として機能するのか、それともBoP的な調整に近づくのかは、FIAの判断と透明性にかかっている。トト・ヴォルフは「支援対象は1社だけ」と主張メルセデス代表のトト・ヴォルフも、ADUOの運用について慎重な見方を示している。ヴォルフは、支援が必要なメーカーは1社だけだと考えており、ADUOの決定が現在の競争順位に干渉するような形になることには強い懸念を示した。「各チームはそれぞれの性能状況を把握しているはずだ。そして私には、問題を抱えているエンジンメーカーは1社だけに見える。我々はそこを助ける必要がある。そして他はほぼ同じ範囲にいる」「だから、ADUOの判断が現時点の競争序列に干渉するようなものになるなら、私は非常に驚くだろうし、失望するだろう」ADUOは、2026年F1の技術格差を是正するための重要な制度である一方、その線引きは非常に繊細だ。開発機会の付与が正当な救済にとどまるのか、それとも競争バランスを動かす装置になるのか。デビッドソンの警告は、FIAが制度の信頼性を保つうえで避けて通れない論点を突いている。
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