2026年F1シーズンは、新レギュレーション時代の幕開けとともに、二つの巨大自動車メーカーの本格参戦という歴史的転換点を迎えた。アウディとキャデラック。両者はともに世界王者を目標に掲げるが、その出発点とアプローチは大きく異なる。アウディは既存チームを引き継ぐ形で体制を構築し、キャデラックはゼロから組織を立ち上げた。目指す頂は同じでも、歩む道は対照的だ。
アウディF1 既存基盤を再建するワークス体制アウディはザウバーを母体にワークス参戦を開始した。フォルクスワーゲングループにとってF1最高峰への本格参入は初となる。チーム代表ジョナサン・ウィートリーは今季のローンチで次のように語った。「我々は遊びでここに来たわけではない。非常に野心的なプロジェクトだ。我々は自分たちの立ち位置も、目指す場所も理解している。アウディをF1史上最も成功したチームにしたい。その旅は今日から始まる」その言葉通り、目標は明確だ。5年以内にタイトル争いに加わることを掲げている。しかし道のりは平坦ではなかった。2022年の参戦発表後、初動投資は十分とは言えず、体制整備は遅れた。2024年にはアンドレアス・ザイドルが退任し、マッティア・ビノットとウィートリーによる二頭体制へ移行。ヒンウィル(シャシー)とノイブルク(パワーユニット)の両拠点を再編し、ようやく再建が進み始めた。2025年には徐々にパフォーマンスが改善し、ニコ・ヒュルケンベルグが長年の挑戦の末に初表彰台を獲得。2026年は自社製パワーユニットの初投入という新章を迎える。ヒュルケンベルグは現状を冷静にこう語る。「まだ推測の段階だ。本当の序列はメルボルン、そして数戦を経て初めて見えてくる。今はトラック特性に左右される部分も大きい」「チームは冬の間ハードに働いた。初めてパワーユニットも手掛けた。忙しく、挑戦の連続だった。現状は悪くないが、改善の余地は大きい」現在の位置づけは中団グループ。ハースF1チーム、アルピーヌ、レーシングブルズと争い、ウィリアムズより前という評価が大勢だ。タイトル争いにはまだ距離があるが、基盤強化は確実に進んでいる。キャデラックF1 ゼロから築くアメリカ型プロジェクト一方のキャデラックF1は、全く異なる道を選んだ。既存チームを買収せず、完全新規参入。政治的逆風を乗り越え、ゼロから組織を構築した。当初はアンドレッティ主導の参戦計画として進んだが、F1側に拒否されるなど紆余曲折を経た。その後体制を再構築し、GMの関与を強化。独自エンジン開発(2029年投入予定)を表明し、最終的に参戦が承認された。チーム代表グレアム・ロードンは立ち上げの苦労をこう振り返る。「我々は何も持たずにスタートした。既存チームも買っていない。すべてゼロからだ。非常に困難なのは承知している」現在はシルバーストンに6棟の施設を構え、米国にも拠点を展開。約600人規模の体制を築き上げた。だが、チームとして共に戦う経験はまだ1年未満に過ぎない。ロードンは今季の現実的な見通しも隠さない。「新規参入チームが最後尾でなければ、むしろ既存チームのどこかに問題があるはずだ」実際、開幕前テストでは最後尾と見られている。ただしそれは“計画通り”の位置だ。長期視点で基盤を築く戦略であり、短期的な結果に一喜一憂しない姿勢が徹底されている。「我々は長年F1を戦ってきたチームと対峙している。だがチームには経験豊富な人材がいる。プラットフォームには非常に満足している。メルボルンが待ちきれない」同じ頂を目指す二つの異なる挑戦アウディは既存組織の再生とワークス体制の確立。キャデラックは白紙からの建設とアメリカ型分散モデル。前者は歴史と技術基盤を再構築するプロジェクト。後者は文化と組織を創造するプロジェクトだ。どちらも簡単ではない。だが両者に共通するのは、2026年レギュレーションを機会と捉えた明確な意思である。世界王者という最終目標は同じ。しかし、その道筋は対照的だ。新時代のF1は、トラック上の戦いだけでなく、組織構築そのものの戦いでもある。
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