2026年F1レギュレーションの核心にあるのはエネルギーマネジメントだ。MGU-Kの出力は従来比で約3倍となる350kWへと拡大された一方、バッテリー容量は大きく変わっていない。この組み合わせが、予選のアプローチにまで影響を及ぼしている。バーレーンテストでは、各チームが1周あたり8.5MJをいかに配分するかを探っていた。その中で明らかになったのは、「より強く踏むことが、必ずしも速さにつながらない」という新たな現実だった。
全開を遅らせるという逆説的アプローチ従来、最終コーナーを立ち上がると同時にドライバーはスロットルを100%まで踏み込み、メインストレートで最高速を最大化してからタイムアタックに入っていた。2025年までのパワーユニットではMGU-K出力が120kWと小さく、さらにMGU-Hがエネルギー回生を支えていたため、バッテリーが急激に空になるリスクは小さかった。しかし2026年仕様では状況が一変した。350kWの電力を扱う現在、バッテリーは急速に消耗する。そこでテスト中に見られたのが、最終コーナー出口で60~70%程度に抑え、ストレート途中から全開に移行する手法だ。チェッカーライン直前で100%に到達させることで、無駄な消費を避けつつ、理想的な初速でアタックラップを開始する。最高速そのものよりも、「理想的な速度プロファイル」を優先する考え方への転換である。デレーティングを遅らせる狙いもし従来通り出口から全開にすれば、アタック開始前にエネルギーを消費してしまうだけでなく、MGU-Kの出力制限、いわゆるデレーティングが早期に始まるリスクがある。デレーティングが始まると電動アシストは徐々にゼロへ向かい、内燃エンジン単体での加速に移行する。バーレーンでのシャルル・ルクレールの最速ラップでは、最高速328km/hに到達後、ブレーキングまでの間に約25km/h速度が落ちている。これはMGU-Kのサポートが消失したことによるものだ。重要なのは、メインストレートだけでなく、その先のターン4へ向かう次の全開区間にも影響が及ぶ点だ。両区間の間には実質1回のブレーキングしかなく、回生機会が限られる。エネルギーを温存できるかどうかが、ラップ全体の完成度を左右する。速度の伸び方が変わった2026年F1マシン2026年型マシンは電動出力の増大と可動空力領域の拡大により、フィニッシュライン通過速度は約300km/hと前年より約10km/h高い。しかし速度の「伸び方」は異なる。2025年型はブレーキング直前でピークを迎えていたのに対し、2026年型はより早い段階で最高速に達し、その後は電動アシスト減衰により伸びが鈍る。これが、加速開始タイミングを戦略的に管理する理由だ。コース特性でさらに顕在化する課題長いストレートや連続する全開区間を持つサーキットでは、この現象はさらに顕著になる可能性が高い。どの地点で全開にするかは、ドライバーの感覚ではなく、エンジニアリング判断に基づく戦略となる。2026年の予選は、単なる限界アタックではなく、エネルギーの使いどころを見極める高度なマネジメント競争へと進化している。アクセルを遅らせるという選択が、最速への近道になる時代が到来した。