2026年からF1で導入予定の「完全持続可能燃料(100% sustainable fuel)」が、チームの財政に深刻な影響を及ぼす可能性がある。現在の見積もりでは、1リットルあたりの価格が従来の約10倍に跳ね上がり、最終的には300ドル(約4万3,000円)を超える可能性も指摘されている。この急激なコスト上昇により、年間の燃料費が200万ドル(約2億8,600万円)を超えるチームも出てくる見込みで、パドック内では懸念の声が相次いでいる。
メルセデスのチーム代表トト・ヴォルフは、マイアミGPでの記者会見で「燃料の価格が予想以上に高騰している」と述べ、その要因として「完全にグリーンな供給網の構築と、特定の高価な成分の使用が求められること」を挙げた。一方、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、開発コストの高さを認めつつも、自チームにとっては大きな問題ではないとし、「将来的には価格帯の設定を導入することも検討すべきだ」と提案している。開発段階から価格は高騰新燃料の価格は1リットルあたり170〜225ドル(約2万4,000〜3万2,000円)と予測されており、最終的には300ドル(約4万3,000円)を超える可能性もある。これは、現在の22〜33ドル(約3,100〜4,700円)から大幅に跳ね上がる形だ。F1コミッション会議がジュネーブで開催された際にも、この価格の上昇傾向が確認され、パドック内では動揺が広がった。あるチーム代表は「まだ性能最適化のための開発が続いており、その分コストも膨らんでいる。最終的には1リットル300ドルという“異常”な水準に達する可能性がある」と明かしている。最大で週末あたり10万ドル、年間240万ドルに現在のレース距離と燃費性能を基にした試算では、1戦あたりの燃料コストは最大で8万〜10万ドル(約1,100万〜1,430万円)に達し、シーズン全体(24戦)では190万〜240万ドル(約2億7,200万〜3億4,300万円)規模に膨らむ見込みだ。特に懸念されているのは、燃料サプライヤーと公式パートナー契約を持たないチームへの影響であり、市場価格での調達を迫られる可能性が高い。予算に余裕のない中団チームにとっては、深刻な負担となる。コストキャップの対象外でも…重くのしかかる「実費」救いは、2026年以降の燃料コストがコストキャップ(予算制限)の適用外とされる点だ。FIAの財務規定では「競技およびテストで使用する認可燃料の購入費・輸送費」は除外項目に含まれている。しかし、支出そのものが劇的に増える事実は変わらず、ある関係者は「キャップ対象外だからといって、無視できる額ではない。これは運営全体に影響を及ぼす規模だ」と警鐘を鳴らしている。FIAは2027年に向けたコスト削減策を検討FIAもこの問題を重く受け止めており、早くも2027年仕様に向けたコスト圧縮の議論が始まっている。現行の2026年仕様は最終設計段階にあり大幅な変更は困難だが、翌年に向けては一部成分の標準化や、安価な素材の導入といった対策が検討されている。FIAシングルシーター部門の責任者ニコラス・トンバジスは、「あらゆる新技術と同様に、導入初期は高コストだが、技術が成熟すれば価格は下がる。持続可能燃料も例外ではない」との見解を示している。トンバジスはまた、F1にとってこの技術革新が重要であるとしつつ、「商業利用を含め、燃料メーカーがより安価な製造法を確立することが鍵になる」と語った。