2022年のF1レギュレーションへの対応として、F1チームは排気ガスやウェイストゲートガスでリアウイングのパフォーマンスを強化する傾向が再び強まっている。Formula1.comの技術専門家であるマーク・ヒューズは、それがF1フランスGPでのシャルル・ルクレール、F1ハンガリーGPでのマックス・フェルスタッペンのスピンの一因になっているのではないかと考察する。
F1マシンの空力で見落とされがちななのが、ディフューザー、ビームウイング、排気口、ウェイストゲートの相互関係だ。数年前、ビームウイングが禁止され、F1チームは排気の流れをリアウイングの下側に向けることで、大きなパフォーマンス向上を得ていた。これは、リアウイング周りの気流を引き込むという効果もある。リアウイング下面への流れが多いほど、ウイングの上面と下面の気圧差が大きくなり、ダウンフォースが大きくなる。そこで、FIA(国際自動車連盟)は、リアウイングに対して排気口を長くして排気口パイプの角度を最大にすることで、その影響を軽減させた。これらの規制は、2022年に導入されたF1レギュレーションでもまだ残っている。しかし、ビームウイングが復活したので、再び排気による空力効果を高めることができるようになった。レッドブルF1は、排気口、ビームウイング、ウェイストゲート、ディフューザーの配置。排気口の角度は最大限に上に向けており、その出口はビームウイングの下側とほぼ水平になっている。これはメインウイングの下側に向かって気流を引き込む効果があると思われる。F1フランスGPでは、ビームウイングが小さくなり、車体幅が狭く、ビームウイング上部のエレメントが排気口の下に配置されている。上側の赤の矢印は、熱い空気が冷却口から出る場所、青の矢印は、よりエネルギーのある冷たい空気が出る場所を示しており、その空気はビームウイングエレメントの下側に作用する。ウェイストゲートはディフューザーの上部にある。ドライバーがスロットルを戻すと、ウェイストゲートが気流を増加させる。アクセルを踏むと、ウェイストゲートは使われないので、ダウンフォースの変化は少ない。上図はF1ハンガリーGPのビームウイング。レッドブルはブダペストでハイダウンフォース仕様のビームウイングを使用。上部エレメントの角度が大きくなり、それ自体がダウンフォースを生成する。ウェイストゲートパイプの出口が見えるが、直径が小さいため、高速ではディフューザーの上にガスを導く。興味深い詳細のは、ウェイストゲートのパイプがディフューザー上部に直接ガスを当てていることだ。これはウェイストゲート使用時のディフューザー性能の向上させる。しかし、ウェイストゲートはターボからの余分なガスを捨てるためのものであり、ドライバーがスロットルをオフにしたときにだけ使用される。最近、レッドブルは、ビームウイングを再配置し、上部エレメントを排気口の上ではなく、下に配置した。これにより、排気口とウイングの角度が大きくなり、配置全体で空力パワーを強化した可能性がある。F1イギリスGPでは、レッドブルの排気口の上向き角度、ビームウイングの下部エレメント上の気流との相互作用の可能性を示している。その後、チームは上部エレメントを排気口の下に配置した。F1フランスGPでは、ターン11でシャルル・ルクレールがスピンしたが、そこでルクレールはアクセルを踏み始めている。F1ハンガリーGPでは、マックス・フェルスタッペンがターン13の立ち上がりでアクセルを強く踏んだ時にスピンした。ウェストゲートで強化した空力の効果がありすぎるため、タイヤに完全に荷重がかかった瞬間にドライバーがアクセルを踏み込むと、ダウンフォースが一時的に大きく低下している可能性がある。