F1スペインGPのフリー走行1回目(FP1)が終了。メルセデスがタイムシートの上位2つを占め、3番手のレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンとは約1秒の差がついた。フリー走行1回目での作業内容はチームによって異なるが、大半のチームが似通ったパターンで進めており、タイムの参考度が最も低いFP1を通常空力テストや新型パーツの確認、マシンの全体的なバランス調整などに充てている。
すべてのセッションが重要だが、計3回のFPセッションのうちFP1が最も重要度が低いと言って問題ないだろう。各チームがFP1でレギュラードライバーを下げ、若手ドライバーに走行機会を与えるケースが時折見られるのはこれが理由だ。今回はウィリアムズがテストドライバーのロイ・ニッサニーを走らせている。チームは冬季のテストプログラム(2020シーズンは6日間)のあとに現行マシンでインシーズンテストを行うことを認められていない。そのため、必要のあるテストはいずれもレースウィークエンドのFPセッション内で行われることになる。FP1では、空気流をテストするために格子状の圧力タップを不恰好な角度であちこちに取り付けたマシンをよく見かける。また、“フロービズ” ペイントも頻繁に見られる。フロービズとはボディワークにスプレーされる薄い蛍光オイルを指し、マシンがガレージに戻ってきたあとに写真を撮影して空気流の状態をすぐに確認するためのものだ。これは現行ボディワークの研究目的で活用されているが、FP1で現行パーツと試作パーツを交互に装着して比較データを収集するケースもよく見られる。これが、FP1のマシンが長時間ガレージで過ごしているもうひとつの理由と言える。フロントウイングは5秒もあれば交換できるが、異なるスペックのアンダーフロアやリアウイングなどの複雑な部分の交換には30分かかる場合もあるのだ。ここまで紹介した作業の大半は、レースウィークエンドでの必要性よりも長期的な必要性から行われている。しかし、空力テストと並行して、各チームはマシンセットアップの最適化のためにもFP1を活用している。各チームは過去のデータや直近のシミュレーター作業から導き出した “ベースライン” セットをサーキットへ持ち込んでいるが、これらには毎回最低限の微調整を加える必要がある。シミュレーターは特定の気温や風向きには対応できず、新たに舗装された路面やその沈下も読みきれないからだ。どのようなアプローチで周回するのがベストなのかを見出すのはドライバーやそのレースエンジニア / パフォーマンスエンジニアたちの仕事であり、彼らは車高やロールバーの硬さを調整したり、マシンのメカニカルバランスを変更したりしている。このようなセットアップ最適化作業が空力テストと同時進行するケースもあるため、決勝レースに向けたプロセスはFP1から始まっていると言える。また、チームはピレリにタイヤセットを “返却”(実際はFPセッション中に配分データ表から消去するだけで、物理的に戻すわけではない)しなければならないため、FPが進むにつれてタイヤセット数は減少していく。天候やその他のトラブルを念頭に置き、チームはFP1開始40分で1セットを返却し、FP1終了時に別の1セットを返却するように定められている。各レースウィークエンドでマシン1台が使用できるドライタイヤは合計13セット。内訳は、決勝レースでの使用が義務付けられている2セット、Q3以前は使用できないコンパウンドが最も柔らかいタイヤ1セット、自由選択の10セットとなっている。FP1開始直後の汚れていてグリップがないサーキットにいち早くコースインしたがるドライバーはいない。FP1開始直後の路面はコースアウトやマシンにダメージを与えるリスクが大きいばかりか、セッション後半のタイムの参考にもならない。そして、FP1開始40分後に返却するFP140タイヤが存在する理由がここにある。このタイヤ(およびルール)は「タイヤセットを消化するか、無駄にするか」と各チームにコース走行を促し、観客にマシンの走行シーンを見せるために設存在する。