2026年F1シーズンの舞台裏で、再び大きな政治的駆け引きが動き始めている。メルセデスのチーム代表トト・ヴォルフが、アルピーヌの株式取得に向けた入札に参加したと報じられ、かつての宿敵クリスチャン・ホーナーとの新たな対立構図が浮上している。対象となっているのは、米投資会社オトロ・キャピタルが保有するアルピーヌの株式24%。この株式の売却を巡っては複数の投資家が関心を示しており、その中にヴォルフとホーナーが含まれていると伝えられている。
アルピーヌ株式24%を巡る争いアルピーヌのエンストン拠点チームの株式24%は、現在オトロ・キャピタルが保有している。同社は3年前に約2億ユーロでこの株式を取得しており、ハリウッド俳優のライアン・レイノルズやゴルファーのローリー・マキロイらが投資家として名を連ねることで知られている。現在、複数のグループがこの株式取得に関心を示しており、チームのエグゼクティブアドバイザーであるフラビオ・ブリアトーレは、以前から「いくつかのグループが関心を示している」と語っていた。その有力候補のひとりが、元レッドブル・レーシング代表のクリスチャン・ホーナーだ。ホーナーは投資コンソーシアムを率いて入札を行ったとされ、ブリアトーレとの関係もあり、以前からアルピーヌへの関与が噂されていた。しかしここに来て、メルセデスのチーム代表トト・ヴォルフも入札に参加したことが明らかとなり、争いの構図は一気に注目を集めている。アルピーヌの企業価値は約25億ポンド報道によれば、今回の入札はチーム全体の企業価値を約25億ポンドと評価する水準とされている。この評価額を基準にすると、オトロ・キャピタルが保有する24%の株式は約6億ポンドに相当する計算になる。もしこの水準で売却が成立すれば、オトロ・キャピタルにとっては大きな利益となる可能性が高い。一方で、この株式売却には条件も存在する。オトロ・キャピタルの株式売却は2026年9月まではルノー・グループの承認が必要となっており、それ以降はより自由に売却できるようになるとされている。そのため、現時点で提出されている入札がそのまま成立するかどうかは不透明で、最終的な決定まで数か月かかる可能性がある。メルセデスとの関係強化の可能性ヴォルフの入札がルノー側にとって魅力的な理由のひとつは、メルセデスとの既存の関係にある。2026年F1シーズンからアルピーヌはメルセデスのパワーユニットとギアボックスを使用するカスタマーチームとなっており、両者の技術的な結び付きはすでに存在している。そのためヴォルフが少数株主として関与すれば、メルセデスとアルピーヌの関係がより強固になり、事実上の“姉妹チーム”のような関係になる可能性も指摘されている。ただしこの構図は、ひとつの人物や組織が複数のF1チームに影響力を持つことになるため、利益相反の問題を巡って議論を呼ぶ可能性もある。ヴォルフとホーナーの新たな戦いもしヴォルフの入札が受け入れられれば、F1の舞台裏では再びヴォルフとホーナーの対立が注目されることになる。両者はこの20年のF1で最も成功したチーム代表のひとりであり、彼らが率いたチームは過去15シーズンのうち14回の世界タイトルを分け合ってきた。その関係は敬意と敵意が入り混じったものとして知られ、Netflixのドキュメンタリーでも度々取り上げられてきた。ポーパシング問題を巡る議論では、ホーナーがヴォルフに対して「問題があるなら自分たちのマシンを変えればいい」と強烈な言葉を投げかけた場面も有名だ。またホーナーがレッドブルを離れた際には、ヴォルフが送ったメッセージも話題になった。「何と言えばいいのか分からなかった。君は時に本当に嫌なやつだったが、同時にこのスポーツに欠かせない存在でもあった。誰と戦えばいい? 君が言っていた“愛憎入り混じる関係”はどうなる?」これに対してホーナーは次のように返信した。「長年こうして競い合えたことを楽しんできた。ライバル関係と競争、そして皮肉の応酬に感謝する。統計が示す通り、誰も僕たちには近づけなかった。君の今後の幸運を祈っている。追伸、髪を切ったほうがいい」ホーナーのF1復帰の可能性ホーナーは現在、レッドブル退任後にフリーエージェントの立場にあり、2026年夏にはF1復帰の可能性があると見られている。本人も欧州モーターショーで「F1にはまだやり残したことがある」と語っており、チームに関わる場合はオーナーシップを伴う形を望んでいると明かしている。アルピーヌ株式の入札は、まさにその条件に合致する可能性のある案件だ。もしこの争いが続けば、F1の政治的な舞台裏では、ヴォルフとホーナーの新たな“戦い”が再び始まることになるかもしれない。