アルピーヌF1チームは、2023年のF1マシンを発表する最後のチームとなり、昨年のマシンから大きくフィロソフィーを変えたA523を発表した。トップ3入りを目指す中堅チームの新車の変更点をF1テクニカルエクスパートのマーク・ヒューズが解説する。アルピーヌ A523は、フロントウイングやワイドノーズ、プッシュロッドリアサスペンションなど、昨年とは全く異なる、大幅な進化を遂げたマシンとして登場した。
アグレッシブな空力と重量の目標を達成し、実際に制限重量を下回っているため、各サーキットの要求に合わせてバラストを配置することが可能となる。新しいフロントウイングは、よりワイドでフラットなノーズに吊り下げられている。ウィングのボトムフラップは、ノーズからぶら下がっているのではなく、ノーズに取り付けられている。テクニカルディレクターのマット・ハーマンによると、この新しいノーズ構造によって、フロントウィングのエレメントをより自由に変更できるようになり、またセットアップの調整能力も高まったという。新型車(左)は昨年(右)よりもノーズが広くなり、ウィングの下部は吊り下げるのではなく、先端に取り付けられるようになった。また、フロントサスペンションのアンチダイブ機構が強化され、コーナーの各段階で空力バランスをより一定に保つことができるようになった。フロントサスペンションは、従来のプッシュロッドレイアウトを踏襲しつつ、ブレーキング時のダイブに対する抵抗力を高めるためにジオメトリーが変更された。これは、この世代のグランドエフェクトカーでは、これまで以上に重要なエアロプラットフォームのためだ。車の姿勢によって、流入する空気のどの割合がボディの上とアンダーフロアに流れるかが決まるためだ。ブレーキング時やコーナー進入時にこの割合が大きく変化すると、強力なアンダーフロアが突然飢餓状態に陥り、リアが不安定になり、コーナーの途中でクルマが水平になって初めて鈍い反応でバランスに戻る。これでは、ターンイン時にリアが安定し、コーナーでレスポンスの良い回転が得られるという望ましい姿とは正反対になってしまう。このレギュレーションでは、この点が全チームの大きな課題となっている。フロントサスペンションのジオメトリー変更は、チームがどのようにエアロゲインに取り組んだかを示す良い手がかりとなる。昨年のマシンは全体的にバランスがよく、ミッドフィールドのライバルたちよりも安定していたが、トップチームのようなダウンフォースレベルと組み合わせることができなかった。A523では、フロアトンネルへのインレットがまったく異なる配置になっており、アンダーフロア全体の設計を見直し、気流の重要な部分をどのように機能させるかを考えていることがわかる。アンダーフロアは、この世代の車のパフォーマンスの支配的な部分だ。A523(左)とA522(右)。プルロッド(右)からプッシュロッド(左)へ、サスペンションのレイアウトを変更したラジエーターの配置やサイドポッドの形状は、フロアをできる限り機能させ、安定した走りを実現するための重要な要素となる。これはフロントとリアのサスペンションのジオメトリーも同様だ。2023年のほぼすべての車両がそうであるようにラジエーターエリアの再配置が行われ、アルピーヌは、サイドポッドの幅を狭くし、上部のショルダー部分を膨らませた。サイドポッド上面にはフェラーリのような深い溝があり、気流をビームウィングに導き、コックピットサイドに流出させないようにしている。それによって、気流のエネルギーを高め、ラジエーターアウトレットルーバーの排出も助ける。アルピーヌA523(左)とA522(右)のサイドポッドレイアウトを比較。ラジエーターの配置を変更したことで、ショルダー周りが太くなり、サイドポッドの幅が小さくなって、その分チャンネルが深くなっていることが分かる。昨年のマシンは、非常に硬いフロアとワイドなボディによって空力的なポーパシングを抑え、フロントとリアのライドハイトによって空力をうまくコントロールすることができた。空力プラットフォームをよりよくコントロールできるようになったことで、新しいノーズとウィングの配置も手伝ってか、ワイドサイドポッドから脱却する自信がついたようだ。マシンのリアは完全に作り直され、サスペンションはプルロッド式からプッシュロッド式に変更された。マット・ハーマンによると、これにより、よりシンプルで軽量な取り付けが可能になったという。プッシュロッドレイアウトにすることで、サスペンションロッカーの位置が下がり、リアアクスルに向かって車体が低くなっているのもそのためだろう。パワーユニットの信頼性向上とターボインレットプレナムの温度低減により、パフォーマンス向上も期待できる。