レッドブル・レーシングの角田裕毅が、メキシコGPで静かな存在感を放った。結果こそ11位に終わったが、フェルスタッペンに迫るペースを見せ、チーム内から「今季ベストの走り」と高く評価された。そして週末には、全スタッフを自ら招待して開いた“チームディナー”が話題となった。タイトル争いの渦中で2026年体制が未定のレッドブル。そんな中で角田裕毅は、走りだけでなく人間性でもチームの信頼をつかみにいく。仲間への敬意を行動で示したメキシコの夜は、彼のキャリアに新たな意味を与える一夜となった。
フェルスタッペンに迫る走りと不運なトラブルメキシコシティの高地で迎えた第20戦。角田裕毅は10番グリッドからスタートし、序盤に見事なペースで順位を上げ、一時は4番手を走行した。チーム内でも「今季もっともマックス・フェルスタッペンに近いペースを見せた」と評価されていた。しかし、運命を分けたのはピットストップだった。リアジャッキの不具合により大きなタイムロスを喫し、結果的に11位でフィニッシュ。ポイント圏を逃す形となったが、チーム関係者によれば「ペース自体はトップ8に入る内容だった」との声もあった。“日本流”の心遣い チーム全員を招いた夕食会週末で最も話題を集めたのは、角田裕毅が決勝前の木曜夜にチーム全員をディナーに招待した出来事だ。メキシコ市内の日本料理をベースにしたフュージョンレストランで行われたその会食は、彼が全額を自費で支払ったという。英ジャーナリストのマット・マジェンディは『The Inside Track Podcast』でこのエピソードを紹介し、「角田裕毅がチーム全員をもてなし、食事代もすべて負担した。チームはとても喜んでいた。もしかすると、これはシート維持への小さな“マスターストローク”だったのかもしれない」と語っている。ディナーの場では終始リラックスした雰囲気が漂い、エンジニアやメカニックたちも笑顔を見せていたという。戦略面で厳しい判断を受けることも多い中で、角田裕毅が示したチームへの敬意と感謝の気持ちは、現場の士気を高める結果となった。メキースとマルコが語る「未決定」の現実マジェンディによれば、レッドブル首脳陣のローラン・メキースとヘルムート・マルコは、ともに「まだ2026年のドライバー体制は決まっていない」とコメントしている。メキースは依然として角田裕毅を高く評価しており、彼のプロ意識とチーム精神を「見過ごせない」と感じているという。一方で、マルコはアイザック・ハジャーを昇格候補として推しており、両者の見解は平行線をたどっている。それでも今回のメキシコGPでの姿勢は、角田裕毅が「単なるドライバー」ではなく「チームをまとめる存在」として評価されるきっかけになった可能性が高い。分析:人間性で勝負に出た角田裕毅の戦略F1の世界では、ラップタイムや順位だけが評価を決めるわけではない。特にタイトル争いのさなかにあるレッドブルでは、チーム全体の結束力や雰囲気がシーズン終盤に大きな影響を与える。角田裕毅が示したのは、その「見えない部分の重要性」だ。彼がメキシコで見せたのは、レースでの力強い走りと、チームに対する誠実な姿勢。この二つを両立できるドライバーは多くない。もし2026年の判断が今後数戦の総合的印象で決まるのだとすれば、角田裕毅はすでに一歩リードしているのかもしれない。メキシコの夜に響いた笑い声は、単なる食事会ではなく、静かな逆転劇の始まりを告げる合図だった。