レッドブルは2026年のF1ドライバーラインナップを、例年のようにシーズン終了後ではなく、シーズン中に決定する方針を固めている。結論は10月末のメキシコGP前後とみられ、角田裕毅に与えられた猶予はわずか9戦。残りのレースはすべて、彼にとって「生き残りをかけた試験」となる。角田裕毅はオランダGPで7戦ぶりのポイント獲得となる9位を得たが、その同じ週末にアイザック・ハジャーが予選4位、決勝3位の鮮烈な走りで初表彰台を獲得。
レッドブル首脳陣は「理想は角田裕毅残留」と語る一方で、現実的にはハジャーの昇格を本格的に検討し始めており、シート争いの情勢は一変している。メキシコGPで決断か ─ レッドブルの早期方針ザントフォールトでの快走後、アイザック・ハジャーは「何にでも準備ができている」と自信を語った。これは強がりではなく、実際にチームが2026年昇格を真剣に検討している証左でもある。レッドブルのモータースポーツアドバイザー、ヘルムート・マルコはオランダGPのORF放送で「メキシコGP頃に決断を下す」と発言。チーム代表ローラン・メキースも「最後のレースまでは待たない」と明言し、ドライバーに早く知らせたいという意向を示した。昨年はクリスマス直前まで決断を遅らせたが、今年は事情が違う。残り4戦を待たずに判断するというのは、チームが早期に体制を固めたい意思の表れだ。この方針は角田裕毅にとって厳しい現実を意味する。つまり、残り9戦がすべて評価対象となり、1戦ごとの結果が直接来季のシートに結びつく状況に追い込まれたのだ。角田裕毅に突きつけられた課題レッドブルにとって最良のシナリオは、角田裕毅が後半戦で結果を積み上げ、シートを守ることだ。それによりチームに安定をもたらし、アイザック・ハジャーにはレーシングブルズでさらなる経験を積ませ、将来的な昇格をより確実なものにできる。だが現実はそう甘くない。角田裕毅は今季ここまで13戦でわずか9ポイント。オランダGPの9位入賞は、7戦ぶりにポイントを獲得した意義ある結果だったが、上位陣のリタイアやセーフティカーの巡り合わせに助けられた側面が大きい。さらに最終スティントでは誤ったスロットルマップに固定され、40%以上踏み込まなければ加速できないというトラブルに直面した。これはチームの設定ミスか、角田裕毅自身の操作ミスかは判然としないが、いずれにせよ確実な上位入賞を逃したのは事実である。メキースは「角田裕毅は依然としてポジティブな傾向にある」と評価しながらも、「フェルスタッペンとの差を縮め、安定してポイントを獲得し続けること」が必要条件だと強調した。つまり、角田裕毅に課された課題は単純明快でありながらも極めて重い。「安定して速さを示すこと」こそが、彼の生き残りを決める唯一の鍵なのだ。アイザック・ハジャーの鮮烈な躍進一方でアイザック・ハジャーは、短期間で一気に評価を高めている。ザントフォールトではルクレールやラッセルを抑えて堂々と3位表彰台を獲得。フェルスタッペンとの差はわずか数秒にとどまり、その走りは偶然ではなく純粋な速さと安定感の賜物だった。マルコは「彼は小さなアラン・プロストだ」と称え、「数周でどのサーキットでも競争力を発揮できる」とその適応力を高く評価。これはトップドライバーに共通する特質であり、マルコが好む典型的な資質でもある。メキースも「 extraordinary race(非凡なレース)」と評し、昇格を真剣に考慮すべき内容だと認めた。1年前にはF1昇格すら危ぶまれていたハジャーだが、今では「フェルスタッペンの次の相棒」の最有力候補として議論の中心にいる。その急成長ぶりは、レッドブルが「2026年昇格は予定より早いが、現状では最良の選択肢」と考えざるを得ないほど説得力を持っている。シーズン中の交代も視野にレッドブルは過去にもガスリーやアルボン、さらにはペレスに対してもシーズン中の交代を断行してきたチームであり、その強引さはよく知られている。今回も例外ではない。もし「ハジャー昇格、角田裕毅降格」という方針が固まれば、それを2026年からではなく今季終盤に前倒しして実行する可能性もある。その場合、レーシングブルズでアービッド・リンドブラッドをデビューさせ、翌シーズンに向けた準備を進めるというシナリオが現実味を帯びる。これは角田裕毅にとって、残りのレースすべてが「生き残りをかけたオーディション」となることを意味する。精神的にも肉体的にも、これまで以上に厳しい戦いを強いられるだろう。刻一刻と迫るタイムリミット残り9戦。角田裕毅は一戦ごとに存在価値を証明しなければならない。オランダGPでの9位入賞は確かに前進だったが、ハジャーの表彰台があまりにも鮮烈で、その影に隠れてしまった。レッドブルが早期決断を下すのはほぼ確実であり、メキシコGPが運命の分岐点となる。角田裕毅が課題を克服しシートを守れるのか、それともハジャーの勢いに押し流されるのか──。答えは目前に迫っており、F1ドライバー市場全体を揺るがす決断になる可能性もある。