トヨタ・ガズー・レーシング(TGR)は、2026年仕様へと進化した「GR010ハイブリッド」の初テストをフランス・ポール・リカール・サーキットで実施した。新世代ハイパーカーとして開発が進められる2026年モデルは、空力やパワートレインに大幅な改良が加えられ、ル・マン24時間および世界耐久選手権(WEC)での王座奪還を目指すトヨタの切り札となる。
2025年シーズンは表彰台を逃す苦戦が続くトヨタだが、今回のテストは再びトップ争いへ返り咲くための重要なステップ。TGR-E副社長・中嶋一貴を中心に開発が進む新型GR010ハイブリッドは、空力効率の見直しと最高速性能の向上を両立させた“再挑戦のマシン”として注目を集めている。熟成されたラインアップと新テストプログラムチームはこれまで通り、#7号車にマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース、#8号車にセバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮という熟練の布陣を維持。テストは10月上旬、富士6時間レース後に公開されたシルエットを経て、ポール・リカールでシェイクダウンからスタート。水曜日と木曜日にかけて行われた2日間の走行はすべてドライコンディションだった。初日は2台が同時走行できる「マニュファクチャラー・コレクティブテスト」として実施され、2025年型と2026年型を直接比較。2日目は1台のみの「マニュファクチャラーテスト」として新型に集中したプログラムが組まれた。2026年仕様の特徴 ― デザイン部門が主導迷彩カラーながら、外観の大幅な変更は一目瞭然だ。トヨタのデザイン部門が初めて造形に関与し、市販モデルやコンセプトカーを想起させるヘッドライト形状を採用。空力面では、フロントカウルがよりスリムになり、直線速度の向上を狙った改良が施されている。サイドポッドやリアウイングも最適化された。TGR-E副社長の中嶋一貴氏は「単に最高速だけでなく、あらゆる分野での改善を目指している」と語る。「ただ、ル・マンでは依然として最高速が課題でした。デュアルバンドBoP(性能調整)で是正されるはずでしたが、まだ差が残っている。空力やドライバビリティの改善と併せて取り組む必要があります」また、2021〜2027年の間に各メーカーへ与えられる「エボ・ジョーカー」5回のうち、少なくとも1回を使用していることが確認されている。それに加えて、パワートレインや電子制御系にも細かな改良が施されている模様だ。「常に改良の余地があります。パワートレイン、制御システム、その他の要素でもね」と中嶋氏は語った。当初このアップデートは2025年導入を予定していたが、風洞試験の認証先がスイス・ザウバーから米ノースカロライナのWindshear社へ変更された影響で延期されたという。「今年のル・マンの結果が、私たちにさらに踏み込む決断をさせました」と中嶋氏。Images courtesy of Passion Motors次なるステップ ― 年内に追加テストを計画ポール・リカールでのデータ解析を終えた後、2026年仕様のGR010ハイブリッドは10月28日に再びケルンの風洞施設へ戻り、空力相関テストを実施する予定。12月10日と12日には、間に1日休養を挟む2回の走行日が設定されており、効率的に検証を進める計画だ。このうち10日は2台同時走行が可能な「コレクティブテスト」、12日は「チームテスト」として使われる。年末にテスト枠を温存しておいたのは、すべてを2026年仕様の開発に集中させるためだ。年明け2026年初頭にはさらに1回のテストを実施し、3月22〜23日のWEC公式プロローグ(カタール・ルサイル・サーキット)に臨む見通し。そして3月28日に開幕する「カタール1812km」で、新型GR010ハイブリッドがデビューすることになる。分析:WEC勢力図再編のカギを握る「空力とBoP対応力」2025年シーズン、トヨタはル・マンを含めて表彰台を逃すなど苦戦を強いられた。その原因はBoP(性能調整)による出力制限だけでなく、空力効率とトップスピードでライバルに劣った点にある。2026年仕様ではこの弱点を克服すべく、従来の「信頼性+安定性」路線から一歩踏み込み、ドライバーが攻められる“解放型パッケージ”へと舵を切った印象だ。また、デザイン部門が造形に関与したことは、ル・マン・ハイパーカークラスにおけるブランド表現強化の一環ともいえる。ル・マンで勝つことだけでなく、「トヨタらしいハイパーカー像」を世界に示す狙いも透けて見える。この開発速度と方向性が成功すれば、2026年のWECは再びトヨタvsフェラーリvsポルシェの“三つ巴”が激化する可能性が高い。Source: The Race
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