レコノサンスラップでクラッシュしたマックス・フェルスタッペンのマシンを超高速で修復して決勝レースに間に合わせたクルーは2020シーズン第3戦のハイライトになった。驚異の修復作業の舞台裏を振り返る。大事に至らなくても、マシンがウォールにクラッシュするシーンを見るたびに我々は胸が抉られるような感覚を得る。そして、グリッドへ向かうラップの途中でのクラッシュは、“大事に至らない” ではない。
ドライバーが無事だと分かっても、週末のすべてが無駄になるというアイディアが頭を埋める。ドライバーがスタートできなければ、あらゆるハードワークや努力が水泡に帰してしまうのだ。しかし、時には幸運が得られる場合もある。ハンガリーGPの日曜日、アストンマーティン・レッドブル・レーシングのクルーたちはそのような幸運を得た。ただしそれは自分で呼び込む類いの幸運だった。トリッキーなコンディションの中、グリッドへと向かっていたマックス・フェルスタッペンはタイヤをロックアップさせてターン12のタイヤバリアに突っ込んだ。ガレージの中でモニター越しに見守っていたクルーたちはその瞬間に背筋を凍らせた。そのため、マックス・フェルスタッペンが左フロントホイールをおぼつかない角度で引きずりながら再び走り始めると、ガレージの中は忙しなさが増していったが、そこには “おそらく上手くいくだろう” という僅かな希望もあった。「要するにロックアップしてしまったんだ。一旦ブレーキをリリースし、再度ブレーキを踏むとまたロックしてしまい、そのまま直進してしまった」とマックス・フェルスタッペンは回想する。「どうやってもロック状態から抜け出せず、マシンは真っすぐウォールへ突っ込んだ。正直、レースは終わったと思った。でも、なんとかギアをリバースに入れてウォールを抜け出してまた走り出せた。僕たちには “ネバーギブアップ” の精神が備わっている。あの時は、マシンをグリッドへ向かわせてチェックしようというプランだった」他のサーキットなら、順序立てられた正しい修復プロセスを経てピットレーンスタートでのリスタートに望みをかけるべく、マシンはピットへ戻っていたはずだ。しかし、ハンガロリンクはトラックポジションが極めて重要なサーキットのため、マックス・フェルスタッペンをグリッドへ向かわせ、そこで状況を評価するという決断が下された。見通しは明るくなかった。「グリッドへ向かうあのラップでマックス・フェルスタッペンはコースを3回外れていたはずだが、言うまでもなく、3回目はかなり致命的だった」とクリスチャン・ホーナーは語る。「トラックロッドが壊れ、プッシュロッドが明らかに破損しているのがすぐに分かった。大きな疑問は、ウィッシュボーンにダメージが及んでいるのかどうかだった。及んでいればゲームオーバーだった。我々はマシンをグリッドへ向かわせ、グリッド上での修復に全力を注ぐことにした。メカニックたちは信じられないような仕事をやってのけた。普通なら1時間半かかる作業を20分でやってのけ、残り25秒で完了した。今日はメカニックたちが素晴らしかった。彼らがいなければ、あのリザルトは不可能だった」左フロントの一角を修復するのに1時間半を要するというホーナーの話を聞いたチーフメカニックは笑みを浮かべる。ファクトリーでの組立作業なら1時間半を要するかもしれないが、ガレージでの特急作業なら約半分の時間でやれていた。「おそらく、通常なら40〜50分が相場でしょう。ですが、私たちにはたった20分しかなく、レースをスタートできない可能性もありました。その中で余裕を持って終わらせることができましたね」2020シーズンのルールも、ハンガリーGPのマックス・フェルスタッペン担当クルーたちに不利に働いた。昨シーズンまでは、フォーメーションラップ開始予定時間の40分前にピットレーンがオープンしていたが、今シーズンは30分前に短縮されていた。また、レースで使用する最初のタイヤセットの装着もフォーメーションラップ開始3分前から5分前に変更されており、その時点でクルーの大多数はグリッドを離れなければならなかった。また、マックス・フェルスタッペンはトラックオープンの時点でガレージを出ていたため、クルーの時間はさらに短くなっていた。最初の問題は、マシンを所定のグリッドポジションへ運ぶ作業だった。「通常はグリッド最後尾でマシンにスケートを履かせて所定のポジションへ運ぶのですが、マシンがフロントウイングを失っていたので、リフトアップできませんでした。それで、マシンを押していくことにしたのです。この間にダメージレベルを評価し、トラックロッドの破損と左フロントのプッシュロッドの損失を確認したので、無線で連絡してスペアパーツをグリッドに運ぶように指示しました。そこからはまさに総力作業でした。時間内に修復できるように全員で懸命に作業しました」2020シーズンはソーシャルディスタンス規則でグリッドに出入りできる人数が減らされている。これは、グリッドの過密状態の回避よりも、スタート前にピットレーンへ戻るクルーたちがピットウォールの通路で混雑するのを回避するための規制だ。「グリッド上の人員削減は修復作業そのものには影響を与えませんでした。というのも、マシンを取り囲める人数には限りがあるからです。私たちはその状況を最大限活用することができました。厄介だったのは、ガレージ裏からグリッドまでスペアパーツを運ぶ作業でした。通常ならグリッドまで来られる許可を得ているクルーがガレージに余っているので、パーツを持ってグリッドへ駆けつけることができます。ですが、そのようなクルーがいなかったので、私たちは効率の良いシステムを考案することにしました。クルーをゲートへ向かわせ、ゲート越しにグリッド上の別のクルーへパーツを手渡すのです。このリレーを機能させるために数分は大忙しでしたが、コミュニケーションが円滑だったので、すべて上手くいきました」この時点では、マックス・フェルスタッペンはグリッドについたドライバーたちのルーティンのためにマシンを離れていた。決勝レース直前のドライバーたちは国歌演奏セレモニーに参加し、レースエンジニアと最後の打ち合わせを行ったあと、数分間集中を高める。「僕はとても落ち着いていた」とマックス・フェルスタッペンは回想する。「“間に合うかどうか見守るしかない” と思っていた。間に合わなければ、レースは終わり。失意の週末を迎えるしかなかった。でも、彼らは信じられない仕事をやってのけた。そ...
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