レッドブルの2009年F1マシン『RB5』は、翌年から4連覇する礎を築いた“すべてのマシン父”となるマシンだ。2005年シーズンからF1に参戦したレッドブル・レーシングは、その後4年をかけて成功の基盤を築いていった。2007年には“空力の奇才”エイドリアン・ニューウェイをはじめとする有能なスタッフを次々と雇用しながら、強豪チームに肩を並べられるレベルまで規模を拡大していった。
だが、レッドブル・レーシングはあらゆる点でまだ若いチームであり、2008年はコンストラクターズ選手権7位に後退していた。しかし、2009年シーズンにすべてが変わることになる。2008年シーズン限りで引退したクルサードの後釜としてセバスチャン・ベッテルが加入。このシーズンは、奇しくもF1が空力レギュレーションの大幅な改訂を実施したシーズンだった。新レギュレーションの施行はチーム間の戦力格差をなくし、エイドリアン・ニューウェイ率いるレッドブル・レーシングのテクニカルチームに飛躍のチャンスをもたらした。そして、ウイニングマシンRB5が開発された。エイドリアン・ニューウェイが真っ新なキャンバスに描いたRB5は、それまでのマシンとは異なり高い位置にフロントノーズが設置されたノーズは先端からモノコックにかけて中央部がえぐられて左右の端が反り立った“Vノーズ”を形状に。ノーズ断面積の規定をクリアするとともに“ホーンウイング”の役割も担った。フロントサスペンションはRB4から引き続きゼロキール式を採用。モノコックのロワアーム取り付け部が丸みを帯びており、ゼロキールとしながらロワアームを長くすることに成功した。リアウイングは翼端板とディフューザー側壁を一体化した独特な形状。そして、リヤサスペンションにはF1に20年以上ぶりにプルロッド式のサスペンションを復活させた。新レギュレーションでディフューザーが小型化したことで、ギヤボックス下の空間を大きくとる必要がなくなると考え、ダンパーやスプリングといったパーツを低い位置に設置することで低重心化するとともに、ギヤボックスの高さを抑えクリーンな気流をマシン後方に送った。プルロッド式はその後、多くのチームが採用することになる。プレシーズンテストでは信頼性不足を懸念されたが、開幕戦からトップを快走するブラウンGPに次ぐ速さを発揮した。ウェットレースとなった第3戦中国GPでは、セバスチャン・ベッテルが優勝。チームとしての初勝利を1-2フィニッシュで飾った。プルロッドの採用によって、この年にブラウンGPが開拓したダブルディフューザーを組み込むことに苦戦したが、第8戦イギリスGPではフロントウイング、リアウイング、エンジンカバー、リアディフューザーにアップデートに成功。カモノハシのくちばしのような平べったい形状のノーズ形状も登場。終盤戦に3戦連続優勝を果たし、コンストラクターズランキング2位へと躍進した。ブラウンGPを捉える事はできなかったが、Vノーズやプルロッド式リアサスペンションは翌年以降他チームのマシンにも取り入れられることになる。レッドブルもこのRB5をベースにして進化型マシンを開発する体制を確立。エイドリアン・ニューウェイは2012年モデルのRB8の説明にあたり「RB5はすべてのマシンの父だ」と語った。
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