レッドブル・ホンダF1にとって、2020年のF1世界選手権が無期限に延期となっている状況は、開幕戦に照準を合わせてきた戦略に大きな打撃となるかもしれない。新型コロナウイルスの世界的な影響により、F1は第4戦までの延期を決定。続くヨーロッパでのレースも各国の措置によって開催はあやぶまれており、早くて5月末、遅くれば6月以降まで開幕はずれ込むと考えられている。
2021年にはF1には新しいレギュレーションが導入されるため、安定したレギュレーションでタイトルを狙うには今シーズンが最後のチャンスとなる。また、レッドブルにとってはマックス・フェルスタッペンをF1史上最年少チャンピオンにするための最後のチャンスでもある。レッドブル・ホンダF1は、開幕戦に照準を合わせていた。これまでスタートダッシュに失敗していたレッドブルは、他のどのチームよりも早くに新車RB16のシェイクダウンを実施。F1プレシーズンテストでも入念な走り込みを行って、開幕戦でベストな状態になるようマシンを仕上げてきた。昨年シーズン後半にメルセデスと対等な戦いをみせて3勝を挙げたレッドブル・ホンダF1は、序盤戦のスタートダッシュにかけていた。F1オーストラリアGPの1週間前にはライバルであるメルセデスのリアブレーキダクトの問題を指摘。土壇場での修正に追い込んだ。また、メルセデスがDASを使用すれば抗議すると揺さぶりをかけていた。F1プレシーズンテストでは、メルセデスのF1エンジンにトラブルが多発。信頼性問題がアキレス腱になるとの見方が強まった。また、フェラーリも新車の仕上がり、空力、エンジンともに納得のいくレベルに達していないと語り、序盤戦での勝利は難しいだろうと語っていた。だが、開幕戦の延期によって、全チームに少なくとも2か月間は開発作業を進める猶予が与えられることになった。各チームは3月末までファクトリーを閉鎖することに合意したとされているが、今のところ、FIA(国際自動車連盟)は中断期間の開発を制限していない。F1プレシーズンテストで大量のデータを収集したチームは、分析と改善に時間をかけることが可能になり、メルセデスもF1エンジンの信頼性を解決し、フェラーリも弱点をつぶすためにマシンとF1エンジンの開発を強化すると報じられている。また、マクラーレンやルノーなど、F1プレシーズンテスト終了までに新車に不安を残していた中団チームにも同じことが言える。今年のF1グリッドは3強チームと中団チームとの差が縮まっており、特にレーシング・ポイントF1チームの急上昇など、下克上が起こる可能性もある。決してレッドブル・ホンダF1も開発をストップするわけではない。しかし、全チームに作業時間が与えられたことは序盤戦で弾みをつけようとしていた戦略に変更を強いていることは間違いないだろう。レッドブルは最後の最後までレースの続行を望んでいた。