2009年のF1で最も大きなトピックと言えるのがKERS(運動エネルギー回生システム)の導入だ。減速時の熱エネルギーを再利用し、1周につき約6.6秒の間、80馬相当のエクストラパワーを与えるこのシステムは、レースを劇的に変化させるデバイスとして期待が寄せられている。しかし、いざ開幕してみると、KERSを搭載するチームは、ルノー、マクラーレン、フェラーリ、BMWザウバーの4チームのみ。
しかも、KERSだけが原因ではないにせよ、4戦を終えた時点で、上記4チームは優勝はおろか、表彰台も雨で中止となったマレーシアGPでのニック・ハイドフェルドの1回のみ。予選でもセカンドローまで到達できていない。(開幕戦でKERS非搭載のロバート・クビサが4番グリッド、中国GPでKERSを外したフェルナンド・アロンソが2番グリッドを獲得したのは皮肉な話だ)結果から見ると苦戦していると言わざるを得ないKERS勢。果たしてKERSにメリットはあるのだろか?レースでの使い方を見てみても、特徴的なのは“攻撃”よりも“防御”的な使い方が目立つ点だ。これまでのところ、どちらかと言えば、不足しているパフォーマンスをKERSで凌いでいるように映ってしまう。KERS導入の際に懸念されていたのがシステム自体の重量。バッテリーの配置位置によっては、マシンの重心が高り、荷重がかかった際の姿勢の変化も大きくなる。F1チームが重量配分が定まらぬままシーズンを迎えるとは思えないが、KERS搭載を考えた時点で、マシン設計の段階でひとつの妥協が生まれることになる。また、コース特性に合わせたバラストの使用が制限されてしまうデメリットがあげられる。実際、BMWザウバーは開幕3戦では体重のあるロバート・クビサのマシンへのKERS搭載を控えており、現在、より軽量なマシンを開発中であるとされている。フェラーリも同様にマシンの軽量化に励んでいるようだ。しかし、もっと問題なのがブレーキング時のスタビリティだろう。これまで、KERS搭載チームのマシンがコーナーで挙動を乱している姿が特に目立っている。2009年のレギュレーションでは、KERSのエネルギー回生はリアブレーキで行われる。また回生は速度に影響するため、高速時と低速時ではフロントとリアのブレーキの効きが変化するという。これらによるブレーキバランスの変化が、ブレーキポイントやブレーキング時のドライバーに違和感を与え、結果としてタイヤに悪影響を及ぼしているように思われる。いくらF1ドライバーといえ、テストが制限された今シーズン、これらの微妙な感覚を掴み取るには時間がかかるだろう。しかし、デメリットだけではない。予選ではKERS勢がセクター1のファステストを記録することが多くみられる。80馬力のエクストラパワーは、マシンの最高速度到達に大きく貢献する。KERSにより、より速くトップスピードで加速することが可能となり、特にストレートが長く、エンジンの全開率の高いサーキットでは威力を発揮する。特にスタートでは、マレーシアGPのアロンソ、バーレーンGPでのハミルトンがみせたような猛烈なジャンプアップが可能となる。また、今のところ防御の方が目立っているが、コーナーの立ち上がりで加速を得るような場合にも有利となる。バーレーンGPで、アウトラップのキミ・ライコネンがいとも簡単にティモ・グロックをオーバーテイクしたシーンが良い例だ。ただし、トラクションを“補う”ような使い方では、タイヤに余分な負荷を与えることになり、レース終盤での失速にもつながってしまうことになる。今のところ、好調のブラウンGP、レッドブル、トヨタは、今のところシーズン中のKERS搭載を明言していない。シーズン後半、開幕からKERSを搭載しているチーム、ドライバーがこのデバイスをどこまで最適化してくるか。そして、軽量のフライホイール式を選択したウィリアムズなどのチームがどこまでパフォーマンスをあげてくるか。KERSひとつをとっても興味深いシーズンになることは間違いない。(F1-Gate.com)関連:KERS
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