マクラーレンのオスカー・ピアストリは、サンパウロGPを一刻も早く忘れたいはずだ。対照的に、チームメイトのランド・ノリスは完璧な週末を達成し、2度の予選でポール、スプリントと決勝の2勝を含む最大33点を獲得。タイトル争いの主導権を完全につかんだ。ピアストリはマシンのセットアップに依然として苦しみ、納得のいかない状態のままレースに臨むことを余儀なくされた。
しかも、週末の議論を呼んだペナルティにより決勝は5位。ノリスとの差は24ポイントに拡大し、残り3戦で追う立場が一段と厳しくなっている。ヒルが懸念した「無線の一言」──“What's the plan?”デイモン・ヒルとジョニー・ハーバートは、ポッドキャスト『Stay on Track』でインテルラゴス週末を振り返った。ヒルは、ピアストリの無線内容に強い違和感を覚えたという。「ブラジルでのレース中、ピアストリが『What’s the plan?(どうすればいい?)』と言ったんだ」とヒルは語った。「その瞬間、“彼は自分が何をしたいのかすら見えていないのか?” と感じてしまった」「レーシングドライバーから聞きたい言葉じゃない」この言葉には、近年F1で加速する“エンジニア主導のセットアップ文化”への皮肉も含まれている。ヒル自身、1999年の最終年に「データがすべて」という流れが強まり、ドライバーの裁量が奪われていくことに危機感を抱いていた。一方、ハーバートはエンジニアリング偏重に一定の理解を示しつつも、こう付け加えた。「完璧を求めるのは分かる。けど、完璧が良いレースを生むとは限らない」とハーバートは語った。「ドライバーが主導権を持つべき時もある」この“主導権”こそ、ヒルがピアストリに欠けていると感じた部分だ。メキシコGP無線で露呈したプレッシャーピアストリは、このタイミングで最悪の形でスランプに陥っている。メキシコGPでQ3最後のアタックが8番手に終わると伝えられた際、無線は沈黙。すでに大きな精神的負荷を背負っている様子が生々しく伝わった。最後の表彰台はイタリアGP。その後はノリスとマックス・フェルスタッペンが完璧に近い形でポイントを積み重ねており、ピアストリはポイント差以上の“勢いの差”にさらされている。3戦でタイトル奪取は可能か?残りはラスベガス、カタール(スプリントあり)、アブダビの3戦。ピアストリが全勝+スプリント勝利でも、ノリスが2位を並べるだけでタイトルはノリスの手に渡る。つまり、ピアストリに必要なのは「完璧な週末×3」かつ「ノリスの失速」という極めて厳しい条件だ。しかし、デイモン・ヒルは一筋の希望を口にしている。それは、マネージャーのマーク・ウェバーがピアストリに与える“精神的バックアップ”だ。「ウェバーが裏で支えてくれているのは間違いない」とヒルは語った。「ただ、最終的にマシンに乗るのはピアストリ自身。MCL39の力を100%引き出せるかどうかは、彼次第だ」ピアストリはこの言葉をどう受け止めるのか。マクラーレン内で揺れ始めた“主導権の構図”を取り戻せるかどうかは、ラスベガスでの走りにかかっている。