メルセデスF1の2024年マシン『W15』の最大の特徴のひとつは、コックピットの位置がこれまでの2台よりも10cmほど後方になったことだ。下図にあるように、コックピット後方に配置された燃料タンクは短く、わずかに高くなっている。2022/23年型は燃料タンクがより低く、より長いため、重心を低く保つことができた。
これにより、特に満タン時の重心高が高くなったが、レーシングカーの構想に必要な総合的な妥協点としては、それを上回る利点がある。また、コックピットが10cm後退したとはいえ、燃料タンクは10cmも短くなっておらず、コックピットを配置し直すために必要なスペースの一部は、同じホイールベース内でギアボックスのケーシングを短くすることで生み出されていることも指摘しておく必要がある。ルイス・ハミルトンは昨年、W13とW14のコックピット位置がマシン後部の動きをよく把握できていないと感じたと口にしていたが、変更の最大の動機は空力的なものだった。メルセデスのコックピットは、フロントアクスルから10cm後退した位置にある。これにより、内部のレイアウトが大幅に変更された。ギアボックスケースも同様に短くなり、全長は同じに保たれている。以前はコックピットを前方に配置していた重要な要因は、露出したアッパーサイドインパクトバー(別名SISバー)を可能な限り前方に配置することだった。その周りの空力シースを、気流を下向きに、フロアの縁に沿って流すために使われていた。この気流の方向転換は、最大の効果を得るためにできるだけ前方で行われる必要があった。また、また、寸法要求の書き方によって、SISバーをもっと後方に取り付けた場合よりもその部分の外側に張り出させることができた。そのアプローチは現在では放棄され、アッパーSISバーはもはや露出しておらず、ボディワークの中に隠されている。しかし、この空力補助装置の損失は、他の部分で得られた利益によって補われていると考えることができる。コックピットを後退させることによる空力上の利点は、理論的には少なくとも2つある。第一に、前輪とサイドポッドの間の距離が広がることで、前輪からの後流がよりコントロールしやすくなる。気流は鋭角な方向転換を嫌うため、ホイールとサイドポッドの距離が大きくなることで、その角度が穏やかになる。第二に、フロントウイングの後方、つまりフロントウイングとサイドポッドの間の容積が大きくなることで、より低い圧力が発生し、気流がフロントウイング上をより速く流れ、ウイングをより強く働かせる。新型メルセデスW15(写真右、写真左は2022年型W13)では、アッパーSISバーはもはや露出しておらず、ボディワークの中に隠されている。W15のコックピットの位置は、かなり後方になったとはいえ、最近のレッドブル3台よりも前方にある。メルセデスとレッドブルは、これまでと同様、妥協点を探ることになる。レッドブルが選択したコックピットの位置と燃料タンクのパッケージングを容易にするためにギアボックスを短くすることの理論的なデメリットは、必然的にフロアが短くなることだ。フロアの面積が大きければ大きいほど、理論上は大きなダウンフォースを生み出すことができる。これは、より後方に位置するコックピットがもたらす前輪後流からの優れた気流と相殺されなければならない。これらの選択は、各チームが望む空力マップの構成、つまりマシンが目にするさまざまな速度、車高、ヨー角に対してダウンフォースをどのように配分したいかというところから導き出されたものだろう。特にメカニカルなバウンシングの制限を考慮すると、そこにも妥協がある。レッドブルは2022年のRB18で選んだコックピットのポジショニングに明らかに満足している。W15では、メルセデスは自分たちが目標とする空力マップのために最大の利益が得られると信じる場所に基づいて根本的に再評価した。