レッドブル・レーシングのF1マシンに積まれているホンダ製パワーユニットについてホンダF1の田辺豊治テクニカルディレクターが解説した。2014シーズンを迎える前まで、F1マシンにはエンジンが積まれていた。それまでの64シーズンに渡り、F1のエンジンにはありとあらゆるシェイプ、排気量、レイアウト、そしてガスタービンからスーパーチャージャーまでのテクノロジーが確認できたが、簡潔にまとめるなら、そのすべては “エンジン” だった。
一方、2014年シーズンからF1マシンに積まれているのは、“パワーユニット / PU” だ。パワーユニットにもエンジンが含まれており、F1マシンの出力担当という意味でもエンジンと変わらないが、エンジン以上の存在だ。エネルギー回生システム(ERS)と呼ばれるハイブリッドテクノロジーがすべてをネクストレベルへ引き上げたのだ。F1がKERSという名称でこのハイブリッドテクノロジーを初めて導入したときは、ただの “追加” として扱われていた。レッドブル・レーシングも2009シーズンはKERS導入を見送り、また、2011シーズンに導入したときも効果が不安定と結論づけていた。そもそも、この2シーズンを走ったRB5とRB7はKERSのあるなし関係なく優勝できるマシンだった。しかし、現在のハイブリッドは当時とは異なる。モータージェネレーター2基がターボーチャージャー付きエンジンと完全に統合されており、ひとつのシステムとして確立されている。“様々なパーツを追加したエンジン” ではなく、“ホリスティック(総体的)なパワーユニット” なのだ。しかし、今も多くの人がこれをエンジンと呼んでいる。長年の慣習は中々変えられない。レッドブル・レーシングとホンダの協働F1で供給されているエンジンは3つに大別できる。F1には、エンジンをF1マシンのデザインプロセスのひとつとして扱って自社開発しているチーム、ワークスチームからカスタマーとしてエンジンを購入しているチーム、個別のサプライヤーからエンジンを購入しているチームがいる。レッドブル・レーシングはコスワースV10エンジンのカスタマーチームとしてスタートしたあと、フェラーリV8、そしてルノーV8のカスタマーチームになると、次にルノー、そしてホンダとパートナーシップを締結した。パートナーシップを締結すれば、出来合いのエンジンを載せるのではなく、自分たちのニーズに応えたエンジンを載せられるようになる。英国と日本は8時間(冬は9時間)の時差があり、ホンダとのパートナーシップにはいくつかのチャレンジが存在するため、できる限り密に仕事をすることが非常に重要になっている。ホンダF1のテクニカルディレクターを務めている田辺豊治は次のように語っている。「PUやシャシーだけでレースはできませんので、レッドブル・レーシングとホンダが近い距離でF1マシンのデザインと製造を進めていくことが非常に重要です。これがレーストラックでのパフォーマンスを高められる唯一の方法なのです。私たちのパートナーシップは2019シーズンからスタートしました。2021シーズンはお互いに難しい要求を出しあっていますが、非常に近い距離で仕事をすることでそのような要求をクリアしようとしています」この発言の好例がパワーユニットの冷却だ。パワーユニット本体はホンダがデザインしているが、それを冷却するためのシステムを用意するのはレッドブル・レーシングの仕事だ。パワーユニットの冷却はF1マシンデザインの一部として扱われており、F1マシンには複数の冷却装置が組み込まれているが、冷却には空力も関わっており、ラジエーターとエアボックスのサイズと断面のデザインが冷却性能に大きな影響を与える。エンジンデザイナーたちが過剰なほどの冷却を求める一方、空力エンジニアたちはミサイルのようなマシンを作りたいと考えているため、ホンダとレッドブル・レーシングはそれぞれの要望を取り入れた上で、最も効果的な妥協点を探る必要がある。田辺豊治が話を続ける。「両陣営の間で絶妙なバランスを取る必要があります。冷却に関しては、パワーユニットに必要な冷却性能を実現した上で、シャシーの重量やデザインレイアウト、空力性能を維持する必要があります。難しい仕事ですが、2021シーズンは良いバランスが取れて素晴らしいパッケージを生み出せました」現在、レッドブル・レーシング・ホンダのPUプログラムは3つのロケーションに分かれている。パワーユニットのコンポーネントは英国・ミルトンキーンズにあるレッドブル・レーシングのファクトリーで確認できるが、ホンダの研究開発・製造の本拠地(HRD Sakura)は日本・さくら市にある。そして、ホンダはミルトンキーンズに別の自社施設を所有しており、ここでレッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリのPUの準備を進めている。田辺豊治が説明する。「HRD Sakuraがコンセプトとデザインを含むパワーユニット全体の開発をリードしています。コンポーネントの開発と製造においては、HRD SakuraはICE(内燃エンジン)、MGU-H(熱エネルギー回生システム)、MGU-K(運動エネルギー回生システム)を担当しています。ミルトンキーンズはバッテリーなどのES(エナジーストア)関連のコンポーネントを担当しています。トラックサイドでは、ホンダのエンジニアたちがレーストラック、大気、路面コンディションごとのPUの最適化とキャリブレーションを担当し、パッケージの性能を最大限引き出しています。レースウィークエンドでは、レッドブル・レーシングのスタッフやドライバーと対面でコミュニケーションを取りつつ、HRD Sakuraとミルトンキーンズのミッションコントロールルームと連絡を取っています」ガレージでの作業トラックサイドのパワーユニットは、外部サプライヤーが用意したものであろうと、チーム内のエンジン部門が独自開発したものであろうと、製造元の管理下に置かれる傾向が強い。レッドブル・レーシングをはじめとする各チームは、ガレージ内にPU専用のワークショップスペースを用意しており、その中で専門スタッフがコンポーネントを準備したり、メンテナンスや各種チェックを行ったりしている。そして、マシンに積むタイミングで、コンポーネントをメカニックたちに渡している。レッドブル・レーシングに随行しているホンダのPUエンジニアたちは、チームのツリーハウスとエンジニアリングオフィスにも専用スペースを所有している。通常、トラックサイドチームに含まれるホンダのエンジニアとテクニシャンは約10人で、彼らは “独立した部門” としてレースエンジニアリングチームやマシンエンジニアリング...
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