ホンダF1のダイナモ担当のエンジニアであるマーティン・プロクターが、ミルトン・キーンズのホンダの拠点で行われているダイナモテストについて解説した。F1の世界で「テスト」といえば、まず思い浮かぶのが2月にバルセロナのカタルニア・サーキットで行われるウインターテストではないだろうか。全10チームが、延々と走行に取り組み、新車の理解を深めて開幕戦に向けた準備を行う光景は例年おなじみとなっている。
しかし、F1のテストはこうしたコース上での実走以外にもさまざまな形で存在する。現在のレギュレーション下では、実走の機会が制限されている一方で、その他の取り組みは制限なく行うことができる。ミルトン・キーンズにあるホンダの拠点では、日本のHRD Sakuraにあるファクトリーと同様に、パワーユニット(PU)のテストを無制限に実施することが可能。このテストには「ダイナモ」という設備を利用している。ダイナモは「ダイナモメーター」の略称で、これに載せることで、PUをシャシーに組み付けることなく稼動させることができる。ミルトン・キーンズでPUのダイナモ部門に所属するスタッフは、時期によって3~15名と変動する。ダイナモ担当のエンジニアであるマーティン・プロクターは「今の職場に来てから、来週で2年になります。すごくいい時間を過ごしてきたと思います。ちょうどマクラーレンとの関係が終わったときに来たので、マクラーレンからトロロッソへの移行、そしてレッドブルへの供給開始という変化に関わることができて、私にとっては素晴らしい経験ができました」t語る。「こうした変化に立ち会い、それぞれのチームの違いを比較できたのは本当に興味深いことでした。我々がトロロッソとレッドブルとの協業に適応していくプロセスはとても自然な流れでした。我々にとっては苦労だと思いませんでしたし、とてもポジティブな気持ちで取り組めたと思います」レッドブルとのパートナーシップ開始により、ホンダは2チームへの供給体制となり、ミルトン・キーンズのダイナモ設備も拡充された。現在は、PUダイナモ1台に加えて、バッテリーのテストベッドも設置されているが、パワーユニット開発の本拠地であるSakuraではそれよりさらに多くのダイナモが稼動している。「ダイナモを使えば、実車を用意したりサーキットへ出向いたりすることなく、エンジンを動かすことができます。例えば、バルセロナやフランスでテストをしたいと思っても、実際に現地へ行かなくて済みますし、機器の輸送も必要ありません。ミルトン・キーンズにいながらにして、世界各国のサーキットにおける調整を行うことができますし、パワーユニットを動かして開発や信頼性向上の取り組みをすることも可能です」「これにはシミュレーションソフトを使っています。ソフトウェア内のモデルはレッドブルとトロロッソのエンジニアリングを統括しているレッドブル・テクノロジーの協力の下、ホンダのスタッフによって作成されます。自分たちのシャシーや空力の理解が深いパートナーを得られたことは大変いいことで、モデルを進化させ、より正確なものにしていくことができるのです。それによって、ソフトでのシミュレーションは変化し、各サーキットに合わせテストや、PUのさまざまな使用法の確認ができるようになっています」「したがって、バルセロナで実走をするだけでなく、かなり実際に近い形でシミュレーションが可能です。この効果はかなり高いです。また、シーズン開幕前には、ピットレーンのスピードリミッターが機能するかといった、基礎的なテストも多く行います。さらに、各センサーが正常に作動してフェイルセーフ機能が働くかというチェックもします」「PUのソフトウェアは特定の環境で動作するようにプログラムされていますが、実際に試してみないと、予期せぬことが起きる可能性があります。ただ、コース上での走行時間は非常に限られているので、そんなことを試す余裕はありません。だから、理論通りに動作するかを確かめるために、ダイナモをたくさん稼動させるのです」2つのファクトリーで担う役割は異なります。Sakuraは基礎的な開発やアップグレードのテストを中心に行う一方で、ミルトン・キーンズでは最終チェックとレースの準備を行う。「我々ミルトン・キーンズは、レースごとのシミュレーションと、チームや現場スタッフのサポートがメインの業務です。Sakuraにも同じ機能のあるダイナモがあり、双方でギアボックスや冷却面についても同じような仕様の設備を使い、連携して動いています」「レース準備のために行うタスクは、毎回膨大な量になりますが、レースの日程は変えられません。だから、日本と英国で連携してどちらかが問題を発見できるような体制になっていることはいいことで、お互いに目標達成を目指して協調しています。これによって、レースまでに必要な調査ができるんです」「日本と英国では時差がありますから、英国側が動く前に日本側で解決策が見つかったり、追加で調査が必要なことが発生しても、それを引き継いでその日中に解決したりすることができます。こうすることで、翌日に日本側が動き出すときには、単独で稼働するよりもより多くの情報が揃った状態になるわけです。時差は大きいので、2台のダイナモによって24時間稼働の体制を作ることができています」実際のコース上では、ドライバーはフライングラップに入る前にエネルギーマネジメントやタイヤなどの準備を行うチャージラップを行う必要がある。しかし、ダイナモ上のPUとは別にバッテリーのテストベッドを稼動させておけば、チャージラップなしでも走行距離換算で最高1日約650kmほどをカバーすることができる。「普段は、我々が出社したらSakuraとのミーティングを開きます。ミルトン・キーンズにいるダイナモ部門のトップは、話し合いに1~2時間かけてテストの状況やそれまでSakuraでどんな結果が得られたのかを把握します。大まかな計画はありますが、実際にはテストプランが日々変化していきます。したがって、我々技術者はミーティングを開きながら、ダイナモの準備も進めます」「準備自体にも時間がかかりますが、だいたい30~45分で稼働が可能となります。サーキット現場でも同じプロセスを踏んでいきますし、それにその間に当日の走行プランを考えます。稼働前には、その日の目標は何か、どんなことを達成したいのかをよく話し合います」「実施するテストに合わせて、ソフトウェアの一部に変更を加えたり、設定を調整したりすることになりますが、そうした仕事もエキサイティング...
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