2025年のF1イギリスGPでランド・ノリスに贈られた伝統のRACトロフィーは、2,717個のLEGOブロックで再構築された。F1が2025年のマイアミGPで、レース前のドライバーズパレードに10台の実物大で運転可能なレゴカーを持ち込んだとき、その成功を予想していた人はほとんどいなかった。
「車が動いていたこと自体が大きな驚きでしたが、さらに驚かされたのはドライバーたちが車に乗り込んだ後にやり始めたことでした」と語るのは、レゴ・グループのチーフ・プロダクト&マーケティング責任者であるジュリア・ゴールディン。「というのも、私たちは彼らに『レースはしないでください』と伝えていたんです」だが、F1ドライバーたちはF1ドライバーだった。最高速度はわずか時速12マイル(約19キロ)に制限されていたにもかかわらず、彼らはすぐに“レース”を始め、ぶつかり合い、コースにはレゴの破片が散らばることとなった。あの光景は瞬く間にSNSやメディアで拡散され、F1ファンだけでなく広く一般の注目を集めた。F1とレゴは、2024年にラスベガスでパートナーシップを発表し、全10チームのミニカーが揃った「Speed Champions」シリーズの発売も同時にスタートした。このシリーズのレゴカーは、2秒に1台のペースで売れているとも言われている。だが、そうした商品展開以上にファンの記憶に残ったのが、マイアミGPでのレゴドライバーパレードだった。大成功に終わったその演出は、「次は何が来るのか」とファンの期待を大きく膨らませることになった。その「次」が、2025年F1イギリスGPのレゴ製トロフィーだ。F1が1950年に世界選手権をスタートさせた記念すべき第1戦が行われたのが、今回の開催地シルバーストンであり、今年で75周年という大きな節目を迎える。これを記念して、F1は表彰台に上がる上位3人のドライバーと優勝コンストラクターに、すべてレゴブロックで作られた実物大のトロフィーを授与することを決めた。このレゴトロフィーの制作を担当したのが、レゴ・グループでクリエイティブリードを務めるサミュエル・リルトープ・ジョンソンだ。普段は親子で楽しめる大型セットや、『ドクター・フー』特別エディションなどのプロジェクトを手がけている。F1から今回のトロフィー制作依頼が届いたのは4月で、マイアミGPでレゴカーが披露されるよりも前のことだった。当初は巨大な金色のレゴブロックを使った抽象的なトロフィー案もあったが、リルトープ・ジョンソンはすぐに方向を見直し、もっとF1の歴史に寄り添ったものにしようと考えた。「F1が75周年を迎えるということで、“歴史を語るものにしたい”と思ったんです」と彼は語った。「イギリスのモータースポーツで一貫して存在してきた象徴がRACトロフィーでした。ですから、『これをレゴで再現したらどうなるだろう?』と考えたんです。結果として、あのデザインが生まれました」RACトロフィーとは、イギリスGPの勝者に贈られる伝統ある金製のカップで、1950年の第1回大会から使用されている。今回のレゴトロフィーはそれを忠実に再現しており、全体で2,717個のレゴブロックを使用し、重量は2kg以上、高さは約58cmに達する。金色のクローム調パーツで彩られた優勝トロフィーに加え、2位と3位にはそれぞれ白とグレーのカラーが施され、コンストラクターズトロフィーは黒で仕上げられている。設計はすべてデジタルで行われ、内部構造には強度を確保するためのテクニックパーツが使用された。トロフィーを構成する全パーツは、レース後に選手たちが掲げたり抱えたりしても崩れないように、すべて接着済みで仕上げられている。特にこだわったのが、本物のRACトロフィーに見られる繊細な花模様だった。ジョンソンはこれをレゴの花形パーツで表現し、ハンドル部分には本来恐竜の尻尾やヤシの木に使われるカーブパーツを巧みに流用した。さらに、F1らしさとLEGOらしさを融合させるため、トロフィーの左右にはレゴ製のF1カー、そして頂点には象徴的なレゴブロックがあしらわれている。「僕が作ったものがレースで実際に授与されるなんて、信じられない気持ちでした」とジョンソンは語った。「祖父と一緒にF1を観ていた子ども時代の自分に、こんな未来があるとは思いませんでした。もし今でも祖父に話せたら、本当に誇らしく思ってくれると思います」完成までには、8人の制作チームが約200時間をかけた。1つのトロフィーの制作に約1週間を要した計算になる。ジョンソンは制作にあたり、過去のF1表彰式映像を見て研究したという。「ルイス・ハミルトン選手は赤ちゃんのようにトロフィーを抱きかかえ、ジョージ・ラッセル選手は高く掲げていました。自分だったら掲げて振ると思います。もちろん、壊さないようにですけど」と笑いながら語った。また、彼の頭にはある出来事が強く残っていた。2023年のハンガリーGPで、ランド・ノリスがシャンパンを開けた勢いで、マックス・フェルスタッペンの磁器製トロフィーを壊してしまった件だ。「あの映像を見て、今回は絶対に壊れないように作ろうと決めたんです」とジョンソンは語った。「だからすべて接着しました」トロフィーの披露は、決勝レースが始まる約1時間前。マイアミのときと同様、演出として“サプライズ公開”の形が取られた。F1のチーフ・コマーシャル・オフィサー、エミリー・プレイザーは、こうした取り組みの背景をこう語っている。「LEGOとのパートナーシップは、ただの広告活動ではないんです。F1という伝統あるスポーツに対して、レゴが本当に敬意を払って取り組んでくれていることが大きな意味を持っています」「Drive to Surviveによって新たなファン層が生まれたものの、最初はどう向き合えばいいか分からなかったところがありました。でもLEGOのようなパートナーが、その層と自然に対話できる架け橋になってくれているんです」「とはいえ、伝統的なファンを切り捨てるつもりはまったくありません。RACトロフィーをベースにした今回の演出は、まさに“伝統と革新の融合”だと思っています」ゴールディンもまた、今後の展開について慎重な姿勢を見せている。「こういう取り組みは特別なものであるべきです。だから頻繁にはやらず、本当に意味があるときにだけやりたいと考えています」と語った。F1とレゴによる次の大規模プロジェクトは、パートナーシップ発表から1周年を迎えるラスベガスGPになる予定だという。「とても楽しいことを準備しています」...
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