2025年F1 スペインGP 決勝で各ドライバーが使用可能な持ちタイヤ数と予想されるタイヤ戦略を公式タイヤサプライヤーのピレリが発表した。今週末、パパイヤカラーに彩られたマクラーレン陣営には明らかに自信がみなぎっていた。そして土曜午後、オスカー・ピアストリとランド・ノリスがそれを証明するような圧巻の予選パフォーマンスを披露し、マクラーレンにとってバルセロナで1998年以来となるフロントロー独占をもたらした。
だが先週末とは異なり、このグランプリの勝敗は土曜日では決しない。最後まで勝負は続く。まさに「ゲームは始まったばかり」だ。ポールポジションは有利、だが勝敗を決めるのは戦略長年の統計では、バルセロナではポールポジションからの勝利が非常に多い。34回中24勝、さらに5回のリタイアを含めれば、ポールスタートの有利さは揺るがない。しかし近年の傾向として、このレースは「戦略で勝つ」レースになっている。タイヤのデグラデーション(熱劣化)は非常に高く、マルチストップが主流。アンダーカットは強力だが、それ以上に重要なのは「規律」、つまりロングランでタイヤ差を築くことにある。スタート位置よりも、適切な戦略こそがスペインGPを制する鍵だ。昨年はどうだった?スペインGPの特徴は、デグラデーションが高いにもかかわらず、ハードタイヤ(C1)があまり使われない点にある。C1はハイ~超高速コーナーでのグリップが不十分で、滑りやすく、C2と同じくらい劣化が早い割にラップタイムも出ないため、2024年はほとんど使われなかった。昨年の上位3人――マックス・フェルスタッペン、ランド・ノリス、ルイス・ハミルトン――はいずれも「ソフト>ミディアム>ソフト」の2ストップ戦略を採用。優勝したフェルスタッペンは17周目と44周目にピットイン、3位のハミルトンはそれぞれ1周早い16周目と43周目にストップした。2位のノリスは少し異なる戦略を採り、1回目のスティントを長く引っ張ってタイヤ差を築き、23周目にピットイン。その後のペース優位を活かして35周目に当時のリーダー、ジョージ・ラッセルをオーバーテイクした。ラッセルは15周目に最初のストップを済ませた後、36周目にハードタイヤに交換する戦略に切り替えた。この「ソフト>ミディアム>ハード」のパターンは他のドライバーにも採用され、ラッセルは4位、カルロス・サインツは6位、ピエール・ガスリーとエステバン・オコンはそれぞれ9位と10位でフィニッシュした。シャルル・ルクレール(5位)とピアストリ(7位)はノリスと似た構成でレースを組み立て、唯一3ストップを選択したのは8位のセルジオ・ペレスだった。ペレスは11番手スタートから「ソフト>ソフト>ミディアム>ソフト」で13・31・49周目にストップを行い、各スティントをほぼ均等に分けた。今年の最速戦略は?金曜のロングラン走行からは、昨年と似た傾向が見て取れた。ハードタイヤは依然としてグリップ不足とバランス難があり、ミディアムとソフトの方がレース向きだと評価されている。ピレリのモータースポーツ・ディレクター、マリオ・イゾラは「ハードは滑りやすく、オーバーヒートもする」と指摘。「ミディアムと同じようにオーバーヒートするが、グリップレベルが低い」という。したがって、今年も「ソフト>ミディアム>ソフト」が基本戦略となりそうだ。ピレリのシミュレーションによると、理想的なピットイン周回は13~19周目と42~48周目。上位勢に残された選択肢は?トップ10のほとんどは、ミディアムとハードの新品が1セットずつしか残っておらず、基本的には上記の戦略にロックされている。もしソフトタイヤの劣化が予想以上に早い場合や、アンダーカットの効果が極端に大きいと判断された場合には、2回目のスティントにハードを投入する「ソフト>ミディアム>ハード」も選択肢に入る。この場合のピットウインドウは10~16周目と32~38周目。ハードは速さでは見劣りするが、持ちは良い。イゾラは「ソフトのデグラデーションと摩耗には不確定要素がある」とし、「特にフロントレフトの摩耗が高く、走行距離には限界があるが、その限界はセッティングやマネジメント能力、路面の進化にも左右される」と話す。ただし、ルクレールにはもう1つの選択肢がある。トップ10の中で彼だけがミディアムを2セット残しており(後方のハース勢も同様)、7番手スタートから早めに動いてアンダーカットを仕掛ける可能性がある。この場合、2回目のストップを36~42周目に早める戦略が適している。後方グリッドの戦略は?この時点で例年であれば「奇跡を狙う1ストップ戦略」が話題に上がるが、今年の路面温度・舗装の荒さ・タイヤへの負荷を考慮すると、1ストップはほぼ不可能。3ストップも理論上はやや遅いとされる。そのため後方勢は、何かしら「違うことをする」しかない。中でも有力とされるのは「ミディアム>ハード>ソフト」の順番で走る戦略だ。第1スティントは16~22周、第2スティントは47~53周まで引っ張り、最後はソフトで一気に攻める構成。この戦略は理論上は最速ではないが、最後尾スタートの角田裕毅が展開を動かすために選択する可能性もある。1列前からスタートするカルロス・サインツも、大観衆の声援を背に何か奇跡を起こそうとするかもしれない。天気は?予報では、決勝はドライ確定。雨の可能性はゼロとされている。ただし予選時のように、山の上には不穏な雲がかかっていたことも事実。決勝で影響しそうなのは「熱」と「風」だ。路面温度は48℃に達する見込みで、タイヤのデグラデーションを一層加速させるだろう。さらに南風が時速35~40kmの突風を吹かせる見込みで、これは観客にとってはありがたいが、ドライバーにとっては悪夢。特に高速右コーナーでの追い風は、リアタイヤのスライドとオーバーヒートを誘発する。エンジニアから「リアタイヤをいたわれ」と言われる中で、どこまで風と熱に耐えて走り切れるか。タイヤマネジメントと戦略眼、そして冷静な判断が問われる90分になりそうだ。