佐藤琢磨が、インディカー 第4戦 アラバマのレース週末を振り返った。2015年ベライゾン・インディカー・シリーズで好成績を収めたいと期待する佐藤琢磨の望みは、4月の週末に3週連続で行われた3レースを終えても、まだかなえられていない。その最後を締め括る格好になったのが、絵に描いたように美しいアラバマ州のバーバー・モータースポーツ・パークでの1戦だった。
AJフォイト・レーシングのダラーラ・ホンダに乗る佐藤琢磨はリードラップでレースを走りきったものの、思わぬ接触や予想もしないタイア・デグラデーションなど様々な出来事が起きた結果、不本意な17位でフィニッシュすることとなった。週末の滑り出しはむしろ明るい期待が抱けるもので、最初のプラクティスでは、湿っていた路面が乾き始めるまで佐藤琢磨はタイムチャートのトップを守り続けていた。「とても勇気づけられました」と佐藤琢磨。「コース上にはまだいくつも川が流れていたし、湿った部分も残っていました。それがどんどん乾いていったのは、誰にとっても同じことです。僕たちはずいぶん長い間、P1につけていましたが、残り10分でコースが乾いてくると、他のドライバーたちがようやく速くなり始めます。この頃、僕たちには少し問題が起きていて、順位を落とすことになりました」それでも10番手というポジションは納得のいくものだったが、2回目のプラクティスではさらに順位を落とすことになる。「とにかくスピードが足りませんでした。僕たちは、シーズン前に行われたオープンテストではコンペティティブで、このときのセットアップをベースに、シーズン序盤のレースで得たアイデアを盛り込んだセットアップに仕立ててバーバーにやってきました。僕たちはマシーンを改良しようとしましたが、うまくいきませんでした。グリップの点でもバランスの点でも僕たちは苦しみ始めていたのです」バーバー戦は2日間での開催となるため、フォイト・チームは思い切った対策を施して予選に臨むことを決めた。「たった2日間しかないので、時間はとても限られていました。そのなかで、いったい何ができるというのでしょうか? とても難しい状況でしたが、きっとうまくいくだろうと期待してマシーンを調整し、予選に挑みました。ただし、2回目のプラクティスが終わった段階で、僕たちは予選の第2セグメントに進むのは難しいと判断していました。しかも、このコースはオーバーテイクが非常に難しいので、予選が極めて重要になることは明らかでした」「通常、予選最初の走行にはブラックタイアを使用してマシーンやブレーキをウォームアップし、アタックに備えて感触を掴むことになりますが、僕たちは最初から全力でいかなければいけない状況でした。僕たちふたり——僕とジャック・ホークスワース——はマシーンのポテンシャルを余すところなく引き出さなければいけなかったので、柔らかめのレッドタイアを2セット投入することを決めました。この場合、第2セグメントでは使い古したレッドタイアを使用することになりますが、まずはトップ12に進むことが先決でした。僕は予選で2セットのレッドタイアを使ったことはこれまでありませんでしたが、それでも僕たちは19位と20位に終わってしまったのです」ギャンブルは失敗に終わり、佐藤琢磨もホークスワースも予選グループの10番手に沈み込んだため、トップ6のみが進出できる第2セグメントに駒を進めることはできなかった。しかも、佐藤琢磨が属した予選グループのほうがほんの少し速かったので、佐藤琢磨はチームメイトの隣にあたる20番グリッドからレースに挑むことになった。「本当に僕たちはがっかりしました。そこで僕たちはセッティングのフィロソフィーを変更し、日曜日のウォームアップでそれを試すことにします。僕たちは決して速くはありませんが、決勝までに把握しておかなければいけないいくつかの点に気づいたので、それらを盛り込んで、決勝レースではうまくことが運ぶことを祈りました。レース中のペースはまずまずよかったと思います。ターン1ではいくつかポジションを上げ、3ワイドか4ワイドになって進入したターン5では、アウトサイドにいたためにオーバーテイクが可能でした。やがてレースは落ち着きを見せ始め、最初の15ラップを終えたころには僕もリズムに乗り始めます。決して好調というわけではありませんでしたが、状況を考えれば決して悪い展開とはいえなかったのです」最初のピットストップを早めに行ったドライバーがいた影響で、ウィル・パワーがピットに飛び込んだとき、佐藤琢磨は11番手まで浮上していた。ところが、そのパワーが佐藤琢磨に飛び込んできたのである!「彼が出てくるのを僕は見ていて、ピットの出口ではちょうど横並びになっていました。ピットレーン出口からターン2のアペックスに至るまではもちろんトリッキーなレイアウトなのですが、速いクルマが迫っていることをスポッターかチームが伝えれば、ドライバーはいつも以上に注意深く走るはずです。でも、こちら側のコクピットから見ている限り、ウィルは僕がいることに気づいていない様子でした。彼がコースインしたとき、僕はもうコーナーに進入していて、どうにもできない状態でした。ウィルがどんどんどんどん近づいてきたので、僕がいることに気づいて欲しいと願っていましたが、やがてコースの端まで追いやられてしまいます。僕はなんとかして避けようとしましたが、残念なことが起きてしまいました。僕たちはこれまでずっとうまくやってきたし、彼には敬意を払っています。なにしろ、これまで何度も際どいバトルをしながら、一度も接触したことはなかったんですから……」接触の衝撃で佐藤琢磨のフロントウィングは壊れて360度スピンを喫したものの、下り坂を利用してストールしたエンジンは息を吹き返した。これで順位を落としたことはいうまでもないが、グラベルトラップに突っ込んだパワーは事故の責任を問われ、ドライブスルー・ペナルティが科せられることとなった。幸いにも、この接触でまき散らされた破片を回収するためにセーフティカーランになったので、佐藤琢磨はピットでフロントウィングを交換してもリードラップから転落せずに済んだ。それから10周ほどが過ぎたところで、今度はステファノ・コレッティとジェイムズ・ジェイクスが接触して再びフルコーションとなったのだが、短期間の間に8番手まで浮上していた佐藤琢磨の運気は、このアクシデントをきっかけにしてまた下降の一途を辿ることに...