通常、先週末のF1イギリスGPのように複数のマシンにタイヤバーストの問題が発生した場合、F1チームは安全性を大義名分としてタイヤサプライヤーのピレリを否定していたが、今回はそうもいかない。F1イギリスGPでは、レース終了間際にバルテリ・ボッタス(メルセデス)、カルロス・サインツ(マクラーレン)、そして、トップを走行していたルイス・ハミルトン(メルセデス)のタイヤがパンク。3台すべてが左フロントタイヤだった。
ルイス・ハミルトンは3輪状態で走行してなんとか勝利を掴んだが、バルテリ・ボッタスとカルロス・サインツは入賞圏内から脱落してレースを終えることになった。当然、ピレリとしては国際映像で立て続けにタイヤが壊れるシーズンが流れることは望ましいことではないが、今回はメルセデスからもマクラーレンからもピレリを批判する声は挙がっていない。実際、今週末はタイヤに同じような故障は起こっておらず、今回のタイヤパーストは、ダニール・クビアト(アルファタウリ)のクラッシュとキミ・ライコネン(アルファロメオ)のフロントウイング破損によってコース上に落ちていたデブリが原因がだったとの見方が強い。しかし、F1チームはピレリに強くを押し付けられないもう1つの要因がある。全F1チームが、ピレリが2020年向けに開発したタイヤの使用を拒否し、今年も昨年と同じタイヤを使用しているからだ。2019年、ピレリは前年に発生したオーバーヒート問題に対応するためにトレッドの薄いタイヤを導入。しかし、多くのチームが作動温度領域の狭さに苦労してタイヤをうまく機能させることができず、2018年のタイヤに戻すべきだとの声も挙がったほどだった。そこで、ピレリは2020年にむけて新たなタイヤを開発。ピレリは、技術規則が変わらないことで2020年のF1マシンのダウンフォースが増すことを想定して開発を行っていた。新コンパウンドは、2019年シーズン中に複数回のテストを実施し、F1アメリカGPのフリー走行で初めて全チームが2020年型のタイヤをテスト。シーズン終了後のアブダビ合同テストでも試された。だが、2020年仕様のタイヤのパフォーマンスにはF1ドライバーから不満が示されていた。熱を入れづらく、ピーク性能もこれまでとは大きく異なっていたため、ラップあたり1秒近く遅くなるサーキットもあった。そのため、F1チームは今年1月に2020年のF1タイヤの使用に反対票を投じ、今年も昨年のタイヤが継続仕様されることが決定した。そこには2020年の異なるタイヤ形状によって新車のデザイン変更することを余儀なくされることを拒んだという理由もあった。当時、ピレリのF1責任者を務めるマリオ・イゾラは「今年のテクニカルレギュレーションは、昨年と同じだ。そのため、1周につき1秒から1.5秒速くなるのではないかと予想されている。1シーズン過ごせば、ラップタイムは改善されるものだ。そのため、2020年にはもう1段階のステップがあると予想される」と語っていた。「つまり、それはダウンフォース量が増え、エネルギーが増えることを意味する。何かを予想する必要があるとすれば、オーバーヒートの可能性が高くなるかもしれないということだ。それはより重要なことになるかもしれない。タイヤにかかるエネルギーが増加するためにね」「2020年マシンのパフォーマンスが向上するため、今年は少し圧力を上げる必要があると認識している。明らかにパフォーマンスが向上したため、私たちが持っている唯一のレバレッジはスタート時の圧力を上げることだ」