1997年のF1ワールドチャンピオン、ジャック・ビルヌーブは、オスカー・ピアストリがここ数戦でタイトル争いから後退した原因は「慢心」だと指摘した。夏以降、ピアストリが意識をチームメイトのランド・ノリスにのみ集中させた結果、終盤にマックス・フェルスタッペンとノリスが勢いを増す中で対応しきれなかったと分析している。
ピアストリはオランダGPでの優勝後、34ポイント差でノリスをリードし、フェルスタッペンに対しては104ポイントものアドバンテージを築いていた。だが、メキシコGPまで4戦連続で表彰台を逃し、ついにノリスに1ポイント差で逆転を許した。「チームメイトだけを意識した」ことが生んだ隙「どんなスポーツでも同じことが起きる」とビルヌーブはSky Sports『The F1 Show』で語った。「シーズンを通して平均的なチームが、終盤になると突然トップに躍り出ることがある。なぜか? 全勝していたチームが崩れることだってある」「今シーズン序盤、ランドはあまり良くなかった。去年終盤のようなランドではなかったんだ。そこで僕たちは『ピアストリが成長してランドに並んだ、あるいは上回った』と思い込んだ。でも実際には、ピアストリが上がったのではなく、ランドが本調子ではなかっただけかもしれない。ピアストリは“自分はもう速い”と安心してしまったのかもしれない。チームメイトしかライバルがいない状況では、最後の一歩、あとコンマ1秒を攻めようとはしないものだ」ノリスとフェルスタッペンの覚醒で露呈した限界ビルヌーブは、ノリスが調子を取り戻し、フェルスタッペンが勝ち続けるようになってからピアストリの歯車が狂ったと見る。「バクーを境に、マックスがすべてを勝ち取り始めた。そしてランドが完全に覚醒したんだ。今シーズン最高の走りをしている。だがピアストリはそれについていけなかった。彼はもう限界に達していたんだ」「そして、さらにコンマ2秒を削らなければならなくなった時、これまで完璧に感じていたクルマが突然扱えなくなる。『同じマシンなのに、なぜこんなに難しいんだ』と感じてしまう。限界内で走っていた時はクルマが完璧に見えるけれど、その限界を超えようとすると、すべてが悪く見えるんだ」マシンもタイヤも変わっていないビルヌーブは、マクラーレンのMCL39やピレリタイヤの仕様が大きく変化していないことも指摘した。「マシンは大きく進化していない。タイヤもピレリ製で同じだ。たまにコンパウンドが柔らかいとか、気温が高いとかあるが、基本的には変わらない」「だから、ほんの少しチームメイトがステップアップするだけで、自分が取り残されたように感じる。そして『なぜうまくいかないんだ?』と混乱し、セットアップをいじりすぎて迷路に入る。データを見て『コーナーでチームメイトが0.1秒速い。じゃあ僕も変えよう』と思う。それが間違いなんだ。本来の自分の走りを忘れずに、少しだけ上積みすればいい」“慢心”がもたらすチャンピオンシップの落とし穴ビルヌーブの分析は、シーズン前半で支配的だったピアストリが、プレッシャーと自己疑念の中でリズムを失っていった姿を浮かび上がらせる。残り数戦、ピアストリが精神的な迷いを振り払い、本来の強さを取り戻せるかがカギとなる。ノリス、そしてフェルスタッペンが勢いを増すなか、“慢心”という心の隙をどう克服するか──。それがF1タイトル争いの行方を左右することになるだろう。
全文を読む