今季のF1でマックス・フェルスタッペンが再びタイトル争いに復帰するという驚きが続く中、さらに意外な展開は、オスカー・ピアストリのパフォーマンス低下だ。開幕戦メルボルンでルイス・ハミルトンを最終ラップで抜いて9位に入ったオーストラリア人は、その後も安定して上位を争い、中国からモンツァまでの間に4位のカナダを除けば表彰台圏内を維持していた。だが、イタリアGPでの3位以降、ピアストリは表彰台から遠ざかっている。
アゼルバイジャンではジャンプスタートと1周目のリタイアで週末を棒に振ったが、シンガポールでは復調の兆しを見せ、ランド・ノリスを予選で上回り、決勝でも1ポジション差でフィニッシュした。しかし、続くアメリカとメキシコの2戦では、両者の差が一気に広がった。マクラーレンのアンドレア・ステラ代表は、この“落差”の原因について明確な見解を示している。「予選後、我々はデータ、コメント、映像を含めてすべてを徹底的に分析した。そして、低グリップ条件ではクルマが滑ってもタイムを出せる走り方をする必要があるという点で重要な知見を得た。これは、オスカーが自然と速さを出す方法とは異なるものだ」メキシコの予選前には、ピアストリ陣営も「オースティンの差は一時的ではない」と感じていたという。昨年の同地ではノリスとの差は6秒だったが、今年は22秒。マシンの進化に伴い、ドライビングの繊細さがより問われる状況になっている。ステラは、ピアストリが依然としてF1キャリア3年目の発展途上にあることを強調し、彼がその状況を的確に処理していると評価する。「クルマ側でも、ドライビング面でもいくつか改善策を見出した。彼はレースで明らかに予選よりも速さを取り戻しており、トラフィックさえなければそのペースを発揮できたはずだ。こうした経験を通じて新しい“ツール”を増やすことこそ、ドライバーとして完成形に近づく過程なんだ」さらにステラは、ノリスの圧倒的なパフォーマンスがピアストリの課題を際立たせたとも指摘する。「ランドは全セッションで非常に説得力のある走りを見せた。低グリップ条件は、彼の走り方にぴったり合っていた。一方、オスカーはその逆方向に特性がある。しかし、この経験は両者にとってプラスになる。チームとしても、今後どんな条件でもパフォーマンスを安定的に引き出す理解が深まった」ピアストリ自身も「過去19戦のやり方はうまくいっていたが、直近2戦ではスタイルを変えなければならなかった」と認めている。オースティンとメキシコは連戦だったため、調整の余地はほとんどなかった。だが、次のブラジルGPまでの2週間でデータ分析とリセットの時間を取れる。昨年のブラジルではノリスと拮抗した速さを見せ、チームのために堅実な走りを貫いたピアストリ。今回も彼らしい“修正力”で巻き返すことができるかが焦点となる。オースティンとメキシコの連続不振は偶然で済むが、もしインテルラゴスでも苦戦すれば、それは単なる一時的な問題ではなく、明確なトレンドに変わるかもしれない。分析:ピアストリの課題は「低グリップ下の柔軟性」マクラーレンMCL39の特性上、メキシコやCOTAのような薄い空気と低グリップの路面では、スライドを許容しながらラップタイムを維持する走りが求められる。ノリスはこの条件下でタイヤの熱入れとスリップコントロールに優れ、攻撃的にラップをまとめることができた。一方で、ピアストリは「車体を安定させて速く走る」スタイルが染みついており、リアの“動き”を活かしきれなかった。今後のカギは、ブラジル以降に待つ多様なコンディションへの適応力だ。MCL39の進化に合わせて、ドライビングの可変性を広げられるかどうか。ピアストリにとってそれは、単なる一時的な不調ではなく、タイトル争いを続ける上で避けて通れない「成熟の壁」になりつつある。
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