モナコGPはF1カレンダーの中でも最も伝統あるレースのひとつだが、近年は「予選でほぼ勝負が決まる」「決勝でオーバーテイクがほとんど起きない」といった課題が指摘され続けてきた。そうした状況を改善するため、FIAは2025年のモナコGPで異例の「2回のピットストップを義務付ける特別ルール」を導入した。しかし、その実験はわずか1年で終了。2026年のモナコGPでは規則から静かに削除されていた。
期待された戦略戦は実現せずFIAが導入した2回ピット義務化の目的は明確だった。78周のレース中に最低2回のピットストップを行わせることで戦略の幅を広げ、単調になりがちなモナコGPをより面白いレースに変えようとしたのである。しかし実際には、期待されたような戦略の多様化は生まれなかった。むしろチームはルールを巧みに利用し、自チームに有利な展開を作り出した。象徴的だったのがレーシングブルズの戦略だ。後方を走るリアム・ローソンが意図的にペースを抑え、後続集団を足止めすることで、前方を走るアイザック・ハジャーに十分なマージンを与えた。その結果、ハジャーは2回のピットストップを消化しながら6位を獲得し、ローソンも8位入賞を果たした。本来はレースを活性化させるためのルールだったが、実際にはチームプレーによる“交通整理”を促す結果となった。ラッセルの行動が示したモナコの問題このレースではジョージ・ラッセルの行動も大きな話題となった。ラッセルはアレックス・アルボンの後方で身動きが取れなくなった結果、ヌーベルシケインを意図的にショートカットして前へ出るという行動に出た。5秒ペナルティを受けることを承知の上で順位を上げる選択をしたことは、モナコでの追い抜きの難しさを改めて浮き彫りにした。それほどまでに現在のモナコでは、前車に追いついても抜くことが困難なのである。FIAは失敗を認めて素早く修正結果的に2回ピット義務化は成功とは言えなかった。それでもFIAが評価されるべきなのは、現状を変えようと試みたこと、そして実験が期待通りの効果を生まなかったと判断すると、翌年には規則を撤回した点だろう。同じ失敗を繰り返さないために早期に制度を見直したことは、むしろ柔軟な対応だったと言える。2026年F1マシンがモナコを変える可能性一方で、モナコGPの将来に希望がないわけではない。2026年から導入された新世代マシンは、従来よりも軽量化され、機敏なハンドリングを実現している。もちろん、それだけで劇的にオーバーテイクが増えるとは考えにくい。モナコはF1マシンが大型化する以前から追い抜きが難しいサーキットだったからだ。しかし現在のグラウンドエフェクト世代のマシンは、前車に接近して走行しやすい特性を持っている。そのため、サン・デボーテやトンネル出口のヌーベルシケインといった数少ないブレーキングポイントでは、これまで以上に勝負が生まれる可能性がある。モナコGPが抱える根本的な課題は依然として残っている。それでもFIAは一度試した改革を撤回し、新世代マシンによる自然なレース改善に期待する道を選んだ。2026年のモンテカルロでは、人工的なルール変更ではなくマシンそのものの進化がレースの姿を変えるかが注目される。