メルセデスF1が2026年F1マシン「W17」で実施したシェイクダウン初日の走行距離は、グリッド全体に向けた小さな“警告”となった。2026年F1シーズン開幕前からタイトル最有力候補と目されているメルセデスF1は、新たに公開したW17で、2022年から2025年にかけて苦しんだグラウンドエフェクト世代の失敗を乗り越えられるかどうかに挑んでいる。
パドックではかなり早い段階から、メルセデスの新エンジンレギュレーションへの対応が非常に順調だという噂が広がっていた。そして昨年末には、より厳格になった圧縮比規定をメルセデスが独自に解釈し、それがエンジン性能だけで数コンマ秒のアドバンテージにつながる可能性があるとして、ライバルメーカーから不満の声も上がった。こうした「エンジンメーカーの中で最も有利な立場にいるのはメルセデス」という見方は、シルバーストンで行われたW17の初走行によって、さらに強まることになった。メルセデスは、フィルミングデーで許可されている最大距離である約200kmを、新車と新エンジンで“箱出し”の状態からほぼ走破。ジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリの両名がドライブし、初日から走行距離を最大化した。これに対し、アウディF1のワークスチームは、走行距離の確保を最優先した保守的な仕様でシェイクダウンを実施したものの、走行距離はその4分の1程度にとどまった。また、レッドブル・フォード・パワートレインズ製の新エンジンを使用するレーシングブルズは、まずイモラで走行距離が15kmに制限される「デモンストレーションイベント」を実施し、その24時間後にフルのフィルミングデーへと戻るという段階的なアプローチを選択している。フェラーリ製パワーユニットを搭載する新チーム、キャデラックF1は、先週シルバーストンで行われたシェイクダウンで200kmを使い切っておらず、同じくシルバーストンでシェイクダウンを行ったとされるメルセデスのカスタマーチーム、アルピーヌがどれだけ走行したかは明らかになっていない。それでも、メルセデスが最初からフルのフィルミングデーを狙い、実際にそれをやり遂げたという事実は、これ以上ないほど強いスタートを切ったことを意味している。「シルバーストンでのW17の初走行は、非常に理にかなった一日だった」メルセデスのトラックサイド・エンジニアリングディレクター、アンドリュー・ショブリンはそう語る。「どのシェイクダウンでも同じだが、焦点はすべてが安全かつ確実に機能するかどうかにある。今回、我々は割り当てられた走行距離を消化することができ、ジョージとキミの両方が2026年型マシンを初めて実走で体験することができた」「これは、ブラックリーとブリックスワースで働く全員の努力の成果だ」限られた映像しか存在しないアルピーヌと比較しても、エンジン周辺やサイドポッドのパッケージングの違いは明確で、プロジェクトに十分な準備期間を持つワークスチームと、まだ洗練途上にある新規カスターチームとの差が浮き彫りになっている。新しいエンジンを前提としたマシン設計において、より大胆な選択をするチームほど、得られるリターンも大きくなる。メルセデスはすでに、何が機能し、何が機能しないのかについて最初の手応えを掴みつつあり、その理解は来週の非公開バルセロナテストでさらに深まっていくはずだ。2026年シーズン序盤はエンジン性能が最大の差別化要因になると見られており、その点に注目が集まりがちだが、このマシン全体の設計が持つ重要性は決して軽視できない。メルセデスは現時点でブックメーカーの最有力候補とされている一方、直近2シーズンでは、2024年にマクラーレンに逆転を許したことで、同じメルセデス製パワーユニットを使うチームの中で2番手に甘んじてきた。W17がメルセデスを再び黄金時代へと導くかどうかは、グラウンドエフェクト世代で最後まで“正解”を掴み切れなかったのと同じ轍を、新レギュレーションでも踏んでしまうかどうかにかかっている。現段階で競争力の序列を読み取ることは不可能であり、ある程度の確信をもって勢力図を語れるようになるには、テストがかなり進んでからになるだろう。それでも、いま最も重視されているのが準備と信頼性である以上、このスタートをメルセデスにとって前向きなものと捉えない理由はない。