2026年に控えるF1史上最大級の技術革命を前に、メルセデスF1チーム代表のトト・ヴォルフは、各チームにとって最大の危険は「シミュレーション、開発ツールと実際のサーキットとの間に生じる大きな乖離」だと警鐘を鳴らした。来季は、シャシー規則とパワーユニット規則が同時に刷新される、世界選手権の歴史でも例を見ない大転換点となる。
新世代マシンにはアクティブエアロダイナミクスが導入され、エンジン側では電動システムが大幅に強化される。バッテリーから供給される出力は、2025年の120kWから最大350kWへと引き上げられ、同時にMGU-Hは廃止される。こうした背景から、2014年のターボハイブリッド導入時に圧倒的な成功を収めたメルセデスが有力視されることも多い。しかし同チームは、前回の大きなレギュレーション変更で苦い経験も味わっている。2022年にグラウンドエフェクトカーが導入された際、8年連続で獲得していたコンストラクターズタイトルの連続記録は途絶えた。そのためヴォルフは、新型マシンが実際に走り出すまでは、いかなる予測も不確かなものに過ぎないと強調する。「将来になってみないと分からない」と、メルセデスが再びトップに返り咲くという予測について問われた際、ヴォルフは答えた。「人は成功や失敗を、すべてを決定づける一つの要素に還元したがる傾向がある。そしてそれをエンジンだと考えがちだ。しかしエンジンは決してすべての基盤ではない。むしろエネルギーマネジメントの方が、確実により重要になるだろう」さらに、分析における短絡的な見方に対しても注意を促す。「新しい経営陣やチーム代表、テクニカルディレクター、空力責任者が来たとか、天才が加わった、あるいは天才ではない人間がチームの運命を変えた、といった話がよく出る。それらは要因ではあるが、それだけではない」「本質的には、正しいデータセットを基に、適切なインフラを備え、そして何よりも仮想世界と現実世界との間で最高の相関を持ちながら、集団として正しい判断を下せる人々の集まりなのだ」そしてヴォルフは、まさにこの点こそが2026年に向けた準備における最大のリスクだと指摘する。「なぜなら、今日では数多くの制限がある中で、クルマというものはこれらのツールの中で発見されるからだ」「そして、そこで見えているものが、実際にクルマをサーキットに持ち出したときの現実を反映していなければ、それこそが、どのチームにとっても最大の危険になる」メルセデスのトップとして知られる慎重な姿勢は、将来の勢力図に対しても変わらない。「私は決して自信満々になることはない。常にコップは半分空だと見る人間だ」「だから我々は、チャンピオンシップを争えるだけの競争力を持つシャシーとパワーユニットを生み出すために、できることをすべてやるだけだ」