ダイムラーが“根拠のない無責任な憶測”として否定したメルセデスF1チームの買収報道。だが、その内容は細部の役割まで練られた非常に詳細なものだった。改めて内容を振り返りたい。Auto Bild と F1 Insider が報じた内容は、トト・ヴォルフがメルセデスF1のチーム代表を辞任し、ローレンス・ストロールがヴォルフとともにチームのオーナーシップを獲得するというもの。
まず、メルセデスF1チームの買収については、ダイムラー、トト・ヴォルフ、アストンマーティンとレーシング・ポイント(ローレンス・ストロール)が複雑に絡み合うシナリオが報じられている。まず、メルセデスF1チームの買収についてだが、現在、メルセデスF1チームの株式は、トト・ヴォルフが30%、ダイムラーが70%を保有している。今年、レーシング・ポイントF1チームのオーナーであるローレンス・ストロールは、アストンマーティの株式の25%を取得してエグゼクティブチェアマンに就任。ダイムラーはアストンマーティンの株式の5%を保有している。トト・ヴォルフは30%の株式を保持し、ローレンス・ストロールがダイムラーが保有していた70%の株式を所有して共同オーナーとなるというのが大筋のシナリオだ。ローレンス・ストロールに買収の資金を提供するためにダイムラーは、アストンマーティンの株式保有率を増やすという。その取引の一環として、メルセデスAMGのCEOであるトビアス・ムアースがアストンマーティンの新CEOに就任する。ちなみにムアーズが就任するのは8月1日だ。では、メルセデスF1のチーム代表を辞任したトト・ヴォルフはどのようなポジションに着くことになるのか。それは過去のニキ・ラウダ、そして、レッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコに似た“スーパーバイザー”的な役割を担うことになるという。さらに Bild は、トト・ヴォルフがブラックリーのファクトリーの監督的な役割を担う意向を持っていると報じている。すでにその役割が機能するかどうかは昨年のF1ブラジルGPに帯同しなかったことでテストが完了している。その際はジェームス・アリソンがチーム代表の役割を代行して、表彰台は獲得できなかったものの、大きな混乱なくグランプリ週末を終えている。では、メルセデスF1チームとアストンマーティンのワークスチーム化が計画されているレーシングポイントとの関係はどうなるのだろう。トト・ヴォルフは、アストンマーティンの株式を“個人的”に購入しているとともに、2020年のレーシング・ポイントのマシンは“ピンクメルセデス”としてメルセデスの昨年マシンに酷似しており、トト・ヴォルフとローレンス・ストロールが舞台裏で取引している可能性が報じられている。メルセデスF1チームとレーシング・ポイントが合併してアストンマーティンF1チームが誕生するというシナリオが報じられていたが、最新の報道ではメルセデスF1がアストンマーティンに代わり、レーシング・ポイントはジュニアチームとして機能するというシナリオが語られた。レッドブルとアルファタウリと同じ関係だ。トト・ヴォルフとローレンス・ストロールは2つのチームの主導権を握る状況となり、アストンマーティンがトップチーム、レーシング・ポイントがジュニアチームとして活動するという筋書きだ。予算上限が導入されることでビッグチームはサイズダウンが必要となる。その抜け穴として懸念されているのがジュニアチームやBチームを持つことだ。トト・ヴォルフは、スーパーバイザーの役割として、アストンマーティンとジュニアチームのレーシング・ポイントのすべてを監督する。前述のとおり、トト・ヴォルフは、ニキ・ラウダの役割を担いながら、ヘルムート・マルコの役割も担うというものだ。だが、ダイムラーが否定した今となってはすべては憶測だ。だが、過去に購読者稼ぎのための“根拠なし”の報道だと必死に否定されたマクラーレンとホンダF1の契約解消がわずか数か月後に現実のものとなったり、“裏が取れている”とされたドライバーの移籍がまったく的外れだったりと、何が起こるかはわからないのがF1の世界。“火のない所に煙は立たぬ”。今後の進展を見守りたい。
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