父の支援でF1キャリアを歩んできたランス・ストロール。その存在はしばしば批判や冷笑の対象となってきたが、アストンマーティンF1の現在を形作ったのがまさに彼であったとすればどうだろうか。多くの資金と人材を呼び込んだストロール家の動きは、いまやフェルスタッペン移籍の噂にまで繋がっている――皮肉にも、“存在感がない”と評された男が、その始まりにいた可能性があるのだ。
近年、ストロールには厳しい批判が相次いでいる。成績不振に加え、チーム内での存在感の薄さや、レースへの情熱が感じられないという指摘もある。元ハースF1代表のギュンター・シュタイナーは彼を「存在感がない」と評し、単なるノーポイントドライバーよりもタチが悪いとまで語った。さらに、一部では「ランス本人はF1を続けたいと思っていないのでは」との疑念も囁かれている。そのキャリアは、父親でカナダの大富豪ローレンス・ストロールの全面的な支援によって成り立っており、F1に留まり続けているのも父の強い意向が背景にあると見られている。ローレンスは、ランスがF1を目指し始めたカート時代から、息子のキャリアに巨額を投資。ウィリアムズ在籍時にもスポンサーとして関与し、その後フォース・インディアを買収すると、チームを完全に息子中心に再編。そして2021年、アストンマーティンへとチーム名を変更し、さらなる本格参戦へと舵を切った。その転機が、フェルスタッペンの将来に影響を与える可能性がある。ストロール家の影響力は凄まじく、ローレンスは2021年に約2億ドル(約1億8200万ポンド)を投じてアストンマーティン株の16.7%を取得。現在は27.7%にまで持ち株比率を拡大し、さらに5150万ポンドの追加投資により、3分の1近い株を保有する見通しだ。また、同社の市場評価を「馬鹿げている」と一蹴し、非公開企業化する意向まで示している。この積極的な投資の背景には、F1チャンピオンを目指す野望だけでなく、息子ランスを「王者の瞬間」に立ち会わせたいという思いも透けて見える。その象徴が、シルバーストーンに新設された最先端ファクトリーであり、F1史上最も成功したデザイナー、エイドリアン・ニューウェイの招聘である。ポッドキャスト『The Pitstop』に出演したF1系インフルエンサーのジェイク・ボーイズは次のように語った。「ランスがいなければアストンマーティンも存在しなかった。アストンがなければニューウェイも来なかった。ニューウェイがいなければ、マックスも移籍しない。つまり、すべてはランスが起点なんだ」一見、誇張に思えるこの主張も、背景を知れば一理ある。もしランスがF1に関わっていなければ、父ローレンスがここまでアストンマーティンに投資することはなかっただろう。かつては中堅どころの“伏兵”だったこのチームが、今や2026年のタイトル獲得を狙う勢いにあるのは、彼の存在なしには語れない。そしていま、レッドブルで不満を募らせるフェルスタッペンが、移籍候補としてアストンマーティンの名を挙げられている。2025年シーズン、RB21のバランス問題に悩まされる中、フェルスタッペンは明らかに苛立ちを見せている。彼は勝利を求めており、「永遠にF1に居座るつもりはない」とも語っている。もしニューウェイらが2026年の新レギュレーションに対応した“勝てるマシン”を作り上げれば、フェルスタッペンがアストンマーティンに移籍する可能性は現実味を帯びる。ただし、その場合に発生する最大の課題は「誰が席を譲るのか」だ。ランスか、あるいは2度の世界王者フェルナンド・アロンソか――。その選択は、このチームを支配する男、ローレンス・ストロールに委ねられる。
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