ホンダF1のマネージングディレクターを務める山本雅史が、2021年のF1世界選手権でアルファタウリ・ホンダF1からデビューを果たす角田裕毅について語った。今季限りでのF1参戦終了を発表したホンダの最後のシーズンとなる2021年、世界最高峰のレースであるF1に弱冠20歳の日本人ドライバーの角田裕毅(つのだ ゆうき)が参戦する。日本人としては7年ぶり、ホンダの育成ドライバーとしては13年ぶりのF1フル参戦となる。
角田裕毅は、4歳でレーシングカートを始め、16歳で鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)を卒業。日本のF4選手権に2年間参戦した後、欧州へ渡ってF3、F2を1年ずつ経験し、ついに最高峰の舞台であるF1の参戦をつかみ取った。順調なキャリアアップの過程を見守ってきた山本雅史は、成長ぶりをこう振り返る。「角田選手とよく話すようになったのは2018年、彼がF4で2年目にしてチャンピオン獲得を果たしたシーズンでした。この年の角田選手は14戦7勝。当時から勝ちにこだわる姿勢が強かったし、とても速いドライバーでした。そこで、夏にヨーロッパでF3マシンのテストに参加させたんです。Red Bull育成プログラムのドライバーも参加して3日間のテストを行い、そこで角田選手は全体のトップタイムをマーク。これがきっかけになってRed Bullの育成プログラム入りにつながり、翌年からFIA F3選手権に参戦する流れになっていきました。本人も言っていますが、この欧州テストが彼のキャリアの大きな転機になりましたね」F4とF3、カテゴリーは1つ違うだけが、マシンは全くの別物と言えるほど異なる。クルマ自体が大きく重くなる上に、ダウンフォースという、高速走行時に発生する空気の流れを使いこなす技術も求められ、ドライビングのレベルを上げる必要があるだけでなく、身体への負担も大きくなる。相当な練習を積んだのだろうか?「レッドブルの(ヘルムート)マルコさんからも、『ヤマモト、ユウキにどれだけ練習させてきたんだ?』と聞かれましたが、事前にF3マシンで走行したのは2回だけです。欧州へ出発する前に1時間程度のミーティングをやって、このテストのプログラムを確認し、それぞれでこういうことを意識して走りなさい、こんな流れでマシンに慣れていきなさい、といった話を細かくしました。角田選手のすごいところは、その話をきっちりと理解して、3日間の走行でどんどんタイムを上げていった吸収力。テストだからという妥協をしないで、トップタイムという見事な結果を出してみせました」2019年、FIA F3選手権で優勝1回を含む3度の表彰台登壇を果たして実力を示すと、翌2020年にはF2へとステップアップ。ここでは24レースで3勝、7度の表彰台でランキング3位と、シリーズの中でもトップドライバーの一人として存在感を示した。「F2での1年間を経て、彼の顔つきが変わったと思いませんか?F4時代はあどけなさがあったけど、どんどん大人の雰囲気になって。特に昨年はF1への意識がはっきりと芽生え、強さが増しましたね。F1マシンのテスト走行をして、さらにまた顔が変わったと思います。本人には自分が何をしなければならないか明確に見えていて、それを確実にクリアして、アップデートし続けたシーズンでした。彼の強みは、この適応力です。昨年の開幕直後に『シーズンを戦うってことを考えているか?』と聞いたら、『一つずつのレースしか考えていませんでした』なんて答えていたんですが、中盤戦の7レース連続でのポイント獲得など、ランキングのことも考えて確実に入賞を果たす戦い方ができるようになりました。また、フィジカル面も大きく成長しましたね。一年を通じてトレーニングを徹底し、体型も変わったし、筋肉の質がよくなったね、という話を本人ともしました」現在、F1に参戦するのは10チーム、各チームにドライバーは2人ずつ。世界で20人しか手にすることができないF1のシートをつかむためには、何が必要なのだろうか?「ホンダとしても育成プログラムを設定して、そこに多くのドライバーが参加しています。そして、すべてのドライバーが平等にチャンスを手にしているんです。その同じ土俵で、与えられた機会をフルに活用して、結果を出していくことが重要です」ホンダの育成プログラムでは、SRSを卒業したドライバーを中心に、まずは国内のF4へ参戦。そこで成果を出せれば、F3や海外レースへの挑戦へと道が開け、さらに上のカテゴリーへのチャレンジが続いていく。スタートラインは皆同じ、参戦のチャンスを手にしたレースで残した結果で評価され、ステップアップできるかが決まっていく。日本のF4選手権でチャンピオンを獲得して欧州に渡った角田裕毅だが、F3で所属したチームは、前年表彰台獲得なし、そして自身にとっては初めて経験するサーキットばかりと、競争力という点で見れば厳しい環境だった。しかし、そこに甘んじることなく、徐々に結果を改善していく。シーズンを振り返ると、序盤はノーポイントが多かったものの、シーズン折り返しを迎えてからは、7レース連続入賞。さらには、3レース連続表彰台に優勝と、文句なしの結果を残した。「もちろん、速さには天性のものがあると思いますが、努力も人一倍です。僕が見てきたドライバーの中で、一番トレーニングを積んでいる一人です。ランチに誘うこともありますけど、彼は『そこはトレーニングの予定があるので、明後日にしてください』という感じで、絶対に自分のペースを崩さないんですね。自分に必要なことは何かを見据えて、それを実行するためには遠慮しない。いい意味でのマイペースさがありますね」F2では、F1参戦に必要なスーパーライセンスを得るための条件が、ランキング4位以上だった。シーズン中盤ではコンスタントにポイントを重ねてランキング3位につけるなど好調だったが、後半にはノーポイントが続き、ランキングが6位まで落ちてしまったこともあった。「ノーポイントが続いたのは、マシントラブルなどが原因でしたが、このとき本人は『チームに助けられた』と語っていました。モータースポーツというのは、自分の速さだけでなく、やはりチームの総合力が欠かせません。チーム全員を味方にしてサポートを引き出せたという点も素晴らしいですね。面白いデータがあるんですが、昨年のF2で、予選とレース1の結果※2だけでポイントを計算すると、角田選手がチャンピオンなんです。世界中の四輪レースの新人ドライバーが対象の『FIAルーキー・オブ・ザ・イヤー』など、数々の賞も得て、自分の実力を証明してみせましたね」「F1に至るまでのレースキャリアの中で、ドライバーはさまざ...
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