ホンダF1が、2020年のF1世界選手権の開幕戦オーストリアGPにエンジンアップグレードを導入した際、ホンダF1がどのようにしてそれを実現したのかについて疑惑の目が向けられた。新型コロナウイルスが世界的な猛威を振るったことで、ヨーロッパに拠点を置くライバルのエンジンメーカーであるフェラーリ、ルノー、メルセデスは国のロックダウンに合わせてシーズン開幕前まで7週間の強制的なシャットダウン期間を過ごしていた。
それにより事実上、ヨーロッパを拠点に置くメーカーはエンジンを改善することができなかったが、日本はその期間に社会的にロックダウンされることはなく、ホンダF1は作業を続けることができた。フェラーリのF1チーム代表を務めるマッティア・ビノットは、ロックダウンによってアップグレードを開幕戦に持ち込むことができなかったが、それが全員に適用されたわけではなかったとハンガリーで指摘していた。マッティア・ビノットは、ホンダF1に名指しで言及。「我々は今シーズンにむけて開発を行っていたが、それをシーズン中に導入することはできないだろう。シーズン開幕前に長いシャットダウン期間があったからだ。ついでに言えば、それは他のパワーユニットメーカーには当てはまらなかった」ホンダF1は、他のメーカーが作業できなかった時期に作業をしていたことを否定していないが、問題の核心はそれによってホンダF1が有利になったかどうかだ。FIA(国際自動車連盟)のシングルシーター担当責任者であるニコラス・トンバチスは、その期間に何が行われたのか、全員を公平にするためにどのようなことが行われていたのかを説明した。ニコラス・トンバチスは、新型コロナウイルスを鑑みたコスト削減のプロセスでの重要な考慮事項のひとつは、各国のロックダウン制限の厳格さの違いによって、チームやメーカーに有利・不利が生じないことを保証することだったと語る。そのためには、多くの国や大陸をまたがる企業に対応する方法を調整する必要があり、妥協は避けられなかった。日本では企業が夏休み中をとる時期にロックダウン状態となる可能性があるため、他のメーカーと同時にシャットダウン期間をとるのではなく、遅らせることに同意したとニコラス・トンバチスは説明する。「ホンダF1のシャットダウンは、期間ではなく、いつ実施するという点で、他のメーカーのシャットダウンとは少し異なっていた」とニコラス・トンバチスは説明する。「すべてのチームとパワーユニットメーカーは、ロックダウンによる異常な状況の間、たまたま特定の国が新型コロナウイルスによる酷い打撃を受け、彼らが他チームやメーカーと比較して不利な立場に置かれたからといって、他にロックダウンを追加することはないということを受け入れていた。それが理由だ」「例えば、イタリアが早期にロックダウンに移行し、英国が遅れていたことなどに主に関連していた。我々はすべてのロックダウンは同等である必要がある、そこで有利・不利が生じるチームやメーカーは存在してはならないと述べていた」ホンダF1がシーズン前に他のメーカーを足並みを揃えてシャットダウンするように命じられた場合、日本政府が夏に作業を停止するように命令した場合に大きな頭痛の種となっていただろう。その場合の唯一の選択肢は、ルノー、フェラーリ、メルセデスにもその期間中に作業を停止させることだが、事実上、全員の開発時間が短縮されることになり、それは良い結果ではなかっただろう。したがって、ホンダF1が夏にロックダウンを実行することを許可されたことは完全に論理的だった。「日本は新型コロナウイルスの進展とロックダウン状況がまったく異なっていた」とニコラス・トンバジスは付け加えた。「4月の初めにこれらのルールに合意したとき、日本で新型コロナウイルスがどのように進展したかに応じて、日本政府が夏にロックダウンを行うかどうかはわからなかった。そのため、ホンダF1のために、少し遅れてシャットダウンを実施できるように柔軟性をもたせる必要があった」「日本で7月にロックダウンを実施するという法的要件があった場合、ヨーロッパのチームに『日本が封鎖されているため、さらに1か月間封鎖する必要がある』と言うのは難しかっただろう」「それがヨーロッパがロックダウンしている間にホンダF1がいくつかの仕事をすることができた理由だ。そして、彼らは現在それを補っている」「人々がさまざまな状況にある場合、完全に公平な規制を作成することができないし、完璧なものはありえない。しかし、それが我々がそれでできる最善の方法だ」考慮すべき他の重要な点は、オーストリアで導入されたホンダF1のアップグレードが、レッドブルとアルファタウリの順位を引き上げようとする追加の馬力を提供することではなかったことだ。ホンダF1が投入したのは、信頼性を向上させることを目的としたアップグレードだった。ニコラス・トンバチスは、2月にF1エンジンがホモロゲートされた後にメーカーがパフォーマンスを向上させること妨げるために設けられた制限をホンダF1が完全に尊重したと語る。「パワーユニット側で実施された2つの主なコスト削減がある。一つは、彼らが何時間ダイナモを走らせることができるかを定めるダイナモ制限の導入だった。これは、洞による空力の制限と同様だ」「もう1つは、パワーユニットメーカーが実行できるホモロゲーションの数の削減だ。どのメーカーもそれに基づいて新たなホモロゲーションや大幅なアップグレードを行っていない」「参加者は、2020年の公認書類によってホモロゲートされている。それは2月のある時点で送信されたものだ。ホンダF1も含めて、参加者の誰もそのパフォーマンスの開発を行っていない」「我々は、このホモロゲーションによって信頼性に問題を抱えている人々がリタイアすることを望んではおらず、多くの人々がエンジンの信頼性を改善させたいと思っていた」「信頼性のアップグレードを承認する非常に特殊なプロセスがある。それは他のマニュファクチャラーも知っている」「信頼性を変更していると言いながら、圧縮比、燃焼室などを変更して、追加の20キロワットなどを手に入れることに悪用することはできない。そのためのプロセスであり、ホンダF1を含めた全てのチームがそのプロセスに従っている」したがって、ホンダは今年序盤に信頼性作業を行うことができたが、不公平にルールを悪用したわけではなく、他のメーカーはこれからその作業を実施することができる。