ホンダのF1パワーユニットの弱点として挙げられているERS(エネルギー回生システム)。中でも『デプロイメント』という言葉は何度も耳にする。デプロイメントとは、回生システムで蓄電したエネルギーをトラックのどの部分でどれだけ使用するかの配分量のことをいう。F1パワーユニットは、V6ターボエンジンに加え、運動エネルギー回生システム(MGU-K)と熱エネルギー回生システム(MGU-H)という2種類のエネルギー回生システムが組み込まれている。
MGU-Kは、1周あたりの回生量が2MJ、放出量が4MJと規定されている。フルで放出した場合、約33秒、120kW(約160馬力)のパワーアシストとなる。ただし、回生量・放出量が規定されているため、この部分で大きな差がつくことはないといえる。一方、MGU-Hは回生量・放出量ともに制限がない。MGU-Hで蓄積したエネルギーをMGU-Kに配分(デプロイメント)すれば、33秒を超えて160馬力をアシストできるようになる。ホンダが問題を抱えているのはこの部分。ホンダのF1パワーユニットは、マクラーレンが掲げたコンセプト“サイズゼロ”によるコンパクトなマシンを実現するため、エンジンのVバンク内に小型化されたターボチャージャーとMGU-Hを収めていると言われている。ただし、MGU-Hを小型化したことで、ホンダは熱エネルギーの回生の部分から苦戦している。そうなると、必然的にデプロイメントの部分でもライバルと比較して劣ることになる。また、ライバルよりも1年遅れで参戦したことで、サーキットや周回、レース状況に応じたデプロイメントの調整にも経験の差が出ている。ホンダは、パワー重視やストレートの多いサーキットでは、早くにデプロイメント分のパワーアシストを使い切ってしまう。そうなると、ライバルよりも160馬力低い状態で走らざるを得ず、ストレートで成す術なく抜かれてしまう。さらにホンダは、エンジンの馬力もメルセデスと比較すると40〜50馬力劣っていると言われており、合計するとトラックの特定の部分で約200馬力以上劣ったマシンで戦うことになる。ジェンソン・バトンは、デプロイメントやDRSを合せると終速度で45km/hの差にあると語っている。また、エネルギーアシストが少ないことでエンジンの燃費にも影響が出ている。しかし、残念ながら、今年はレギュレーションによってパワーユニットのレイアウトを変更することは不可能。ホンダは、2016年にむけてレイアウト変更を含めたパワーユニットの準備を進めており、大躍進を目指している。