2026年F1レギュレーションのもとで導入された新世代パワーユニットは、ドライビングスタイルそのものに変化を強いている。エネルギー回生とターボラグ対策を優先する設計思想が、これまでの常識とは異なるギア選択を求めているからだ。特に顕著なのが、従来なら2速や3速で進入していたコーナーで1速を使うケースが増えている点である。
効率的な回生と、1周あたり最大8.5MJという使用可能エネルギー上限に到達するための“必要な犠牲”だが、ドライバーにとっては決して歓迎できるものではない。なぜ1速が必要になるのか2026年型パワーユニットは、350kWのMGU-Kを搭載しながらもバッテリー容量はほぼ据え置きとなっている。このため、回生とエネルギーマネジメントはこれまで以上に重要な要素となった。バーレーン・インターナショナル・サーキットのように強いブレーキングポイントが多いコースでは回生機会はあるものの、4本の長いストレートが存在するため、ストレートでの電力消費を補うためにコーナー進入や旋回中の回生効率を最大化する必要がある。その結果、一部チームは従来よりも低いギアを選択。エンジン回転数を高く保つことでターボを回し続け、MGU-H廃止によって再び顕在化したターボラグを抑制しようとしている。ジョージ・ラッセルはこう語った。「今バーレーンでは、通常ならターン1は3速で進入する。でも今は1速を使わなければならない。エンジン回転を高く保ち、ターボを回し続けるためだ。おそらくこれが最も厄介で、直感に反する部分だ」“サイドブレーキ”のような違和感なぜこれほど違和感があるのか。理由は減速時の挙動にある。低いギアに落とすほど、いわゆるエンジンブレーキ効果が強くなり、ドライバーには“サイドブレーキが引かれた”ような感覚が生じる。そこに強化された電動回生が加わるため、リア側の挙動は極めて繊細になる。ブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)はすでに10年以上使用されてきたが、今回は電動成分の比率がさらに増大。リアブレーキディスクも小型化され、より多くの減速エネルギーが電動回生へと振り分けられている。その結果、ブレーキングは一定ではなく、ピークから徐々にリリースしていく多段階的な挙動になる。エンジンブレーキ、回生量、ブレーキバランスを総合的に制御しなければならず、マシンバランスは極めてデリケートだ。バルセロナ、サクヒールの両テストでロックアップが多発したのも、この調整がまだ最適化途上にあるためである。コーナー出口での“副作用”1速で進入するということは、出口で強大なトルクを抱えることも意味する。エンジンは高回転域を維持し、そこに電動パワーが重なるため、特に低グリップ時にはリアタイヤへの負担が大きい。そのため、ドライバーは従来とは異なるライン取りやアクセルワークを強いられる。特にタイヤが摩耗した状態では、リアが動きやすく、過熱リスクも増大する。ラッセルは日常の例えで説明した。「スーパーに向かう途中、ロータリーを3速で入ろうとする。でも隣の人が突然“1速に入れて”と言うようなものだ。突然エンジン回転が跳ね上がる。普通の速度で走っていて、ロータリーを1速で入ることはない」「理論上は3速のほうがコーナーは速い。でもそうするとストレートで大きく失う。今はその全体バランスを学んでいる段階だ」“必要だが不快な犠牲”2026年F1は、単純なラップタイム最適化ではなく、周回全体でのエネルギー収支最適化が勝負を分ける時代に入った。1速多用は直感に反する。コーナリング単体では非効率であり、ドライバーの感覚にも合わない。しかしストレートでの失速を防ぐためには不可欠である。それはまさに“飲み込みづらい犠牲”だが、現在のレギュレーション下では避けて通れない選択なのである。