ここ最近、マクラーレンのMCL39が他チームよりも優れたタイヤ温度管理を実現している背景に、非常に巧妙なリアブレーキダクトの設計があるとして注目が集まっている。特にリアタイヤの温度が過度に上昇しやすいサーキットにおいて、この設計がマクラーレンのアドバンテージをより一層際立たせているという。
そのダクトの内部構造がどのようになっているのか、詳細はまだ広く知られていないものの、FIA(国際自動車連盟)はその設計を確認済みであり、現行レギュレーションに完全に準拠しているとし、懸念は抱いていないという。ブレーキ冷却技術は、現在ではディスクを囲う「ケーキ缶(cake tin)」型のドラムカバーも含め、ここ数十年で劇的な進化を遂げてきた。2000年代初頭のマクラーレンのブレーキディスクドラムかつてはブレーキダクトは無害で地味な存在であり、ディスクとキャリパーに空気を送り込んで最適温度を保つという単一の役割に徹していた。炭素繊維製のディスクが導入され、650~850℃の範囲で運用されるようになるとその重要性は増した。これを超えて1,000℃以上で走行し続けると酸化が急速に進み、ディスクが劣化してしまうからだ。それでも、当初はダクトの役割は冷却に限られていた。やがて、リアダクトは「スプリングを介さずにホイールに直接ダウンフォースを加えられる貴重な機会」であると気づかれた。リアのブレーキダクトは内部で冷却用の空気を通しつつも、外部にはダウンフォースを生み出す小さなウイング状の構造が加えられるようになり、最終的には“格子状の小型空力デバイス”の集合体のようになっていった。これにより、ダクトは2つの役割を担うようになり、フロントとリアのダクト設計はより差別化されていった。特に、空力的に有効だった「ブローンアクスル(吹き出し式フロントホイール)」が禁止されてからは、その傾向が強まった。2000年代初頭、フェラーリはフロントホイールリムにドラムを装着し、サイドポッドとフロアへの空気の流れを改善しようとした2000年代初頭にはフェラーリが先駆けて、フロントホイールリムの横にドラムを設けることで、サイドポッドやフロアへの空気の流れを最適化する試みを始めた。このカーボン製ドラムはやがてリアブレーキディスクの周囲にも用いられるようになり、ブローンホイールの禁止後はさらに普及した。その後、1,000馬力級のパワーとかつてないダウンフォースを持つ大型のF1マシンが登場し、これをPirelliのコントロールタイヤで制御する必要が出てきたことで、ブレーキダクトとドラムの「副次的な効果」が一躍注目を集めるようになった。それは、タイヤ温度のコントロールである。フロントでは素早く温度を上げ、リアでは過度な加熱を防ぐ――この管理が極めて重要になったのだ。リアにおいては、吸気された冷却空気の一部がディスクとキャリパーに送られ、もう一部はホイールリムに直接向けられる。こうした目的に応じた複雑な内部チャンネル構造が、ダクトに組み込まれるようになった。2022年のグラウンドエフェクト規定導入に伴い、リアのブレーキドラム(通称「ケーキ缶」)は標準化された。これは車両後方の乱流幅を最小化し、後続車との競り合いを容易にすることを目的としている。メルセデスの設計からも分かるように、ブレーキ冷却技術は目覚ましい進化を遂げてきた現在では、ブレーキドラム内の空気圧が、ダクトからどのように空気を供給されるかによって制御されており、これによって空気流の速度や冷却能力が調整されている。その結果、ホイールリムやタイヤに伝わる熱量も制御可能となっている。レギュレーションによる制約があるとはいえ、スピードというウイルスは常に変異を続け、F1チームは性能を引き出すための抜け道を探し続けているのだ。
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