2020年のF1世界選手権は新型コロナウイルスの世界的な大流行によって開幕の目途が立っておらず、収入が見込めないことから特に小規模チームは存続の危機に瀕している。そんな中、レッドブル・ホンダF1のチーム代表クリスチャン・ホーナーが提唱するのが“カスタマーカー”の使用だ。かつて、F1ではF1マシン(シャシー)を購入して参戦することが認められていた。だが、1982年に締結されたコンコルド協定によって“コンストラクターにのみF1への参戦資格を与える”ことが制定された。
基本的にカスタマーカーには大規模チームが賛成し、小規模チームが反対する。大規模チームは財政的に苦しむ小規模チームを救うためという大義をかざし、小規模チームはシャシーを購入することによて大規模チームと争う機会が失われる、またはミッドフィールドでの順位を失うことを懸念して反対する。カスタマーカー問題が最も脚光を浴びたのが2008年のコンコルド協定締結時だ。当初、2008年からカスタマーカーが解禁される予定だった。2007年、それを見越して参戦していたスーパーアグリとトロロッソが、それぞれ事実上、ホンダとレッドブルは事実上のカスタマーカーでF1に参戦。ホンダはRA106の“知的財産権”をPJUUに譲渡してそれをスーパーアグリが使用。レッドブルはレッドブル・テクノロジーからレッドブル・レーシングとトロロッソの2チームに供給することで「コンストラクター間の取引禁止」という文面を回避していた。しかし、ウィリアムズやスパイカーといったチームが反発。ルノーやトヨタも反対側に回った。最終的に2008年のコンコルド協定ではカスタマーカーでの参戦は認められず、スーパーアグリとトロロッソは2009年に暫定的にカスタマーカーの使用を認められたが、2010年以降は独自にマシンを開発しなければならなくなった。これにより、マクラーレンからマシンを購入して2008年から参戦を計画していたプロドライブは参戦を断念。F1撤退を余儀なくされたスーパーアグリも買収先を見つけられなかった。2016年にハースがF1への参戦を開始した際にもカスタマーカー問題が再浮上した。ハースF1チームのマシンは、フェラーリの部品を70%以上搭載し、フェラーリの前年マシンと酷似していた。この技術提携なくしてハースF1チームは存在しないことは誰もが知っていたが、FIAはそれを許可した。ハースF1チームのマシンは、F1レギュレーションに定められた“掲載部品”が関連している。各チームはノーズ、フロントウィングとリアウィング、バージボード、アンダーボディ、エンジンカバーなどを独自に開発および構築しなければならないが、第三者にアウトソーシングすることは許可されている。この問題は2020年にはさらに発展。レーシング・ポイントF1チーム RP20が2019年のメルセデスW01、アルファタウリAT01がレッドブル・ホンダRB15に酷似し、プレシーズンテストで優れたパフォーマンスを発揮した。そんな中でレッドブル・ホンダF1のクリスチャン・ホーナーは、カスタマーカーの実現を提案した。新型コロナウイルス危機からチームも守るのは、予算上限を引き下げることではなく、カスタマーカーを購入してコストを抑える方が現実的だとの意見だ。クリスチャン・ホーナーは、“写真”からメルセデスのF1マシンをコピーしたと主張するレーシング・ポイントを例に挙げ、それならばカスタマーカー購入を許可した方がコストは下げられると主張する。レッドブルをはじめとするビッグチームは、カスタマーチームにパーツを販売しており、そのためのR&D(研究開発)によってカスタマーチームよりもコストがかかっている。そのため予算上限の大幅な引き下げに抵抗している。「我々はコスト削減について、特に小規模チームのことを真剣に考えているのであれば、私なら今後2年間で完全なカスタマーカーを供給することを完全に支持するだろう」とクリスチャン・ホーナーはコメント。「小規模なチームはR&Dを必要としない。彼らはレースチームと同じように走り、コストを大幅に削減できるだろう。現代の3D写真技術によって、いずれにしろ全チームがお互いにそれぞれのマシンをコピーしようとしている」「時代は変わり、物事は動いている。F1は何年も前にカスタマーカーを使用していました。マーチやフェラーリからマシンを購入してレースをすることができていた。堂々巡りをして、数字について自分たちの首を絞めるのではなく、既成に縛られずに考える必要がある。小規模チームを救済し、競争力を向上させることが重要なのであれば、小規模チームがカスタマーカーを買うことができるという論理に反対することは非常に難しいことだと思う」だが、この意見に反対するのがフェラーリから大量のパーツを購入しているハースF1チームだ。彼らも大規模チームと小規模チームとの競争力がさらに開くことを懸念している。ギュンター・シュタイナーは「すべてがチームがすでに仕事をする方法を見つけているので、その計画はもはや妥当とはいない」とコメント。「正直、追加のお金は必要ない。ビッグチームに少ない予算で作業してもらいたい。そうすることで、競争力を高めることができる」ギュンター・シュタイナーは、クリスチャン・ホーナーの計画では、上位チームが小規模チームに大きな影響を与える可能性があると考えている。「そうなると我々はカスタマーチームになる。1年落ちのマシンを走らせることになるので、実際にはビッグチームがパフォーマンスを操作することになる」「彼らは常に我々より先を行くだろう。予算上限があっても、我々はビッグチームの予算にまだ到達していない。だが、我々hはより近づいている。そのマシンが今年のクルマよりも速くなるとは思わない」カスタマーカーを巡る堂々巡りは今後も繰り返されることになりそうだ。