F1人気が世界的に急上昇するなか、元F1ドライバーのデレック・デイリーが「カラー混乱」が新規ファン獲得の妨げになっていると警鐘を鳴らした。モナコGPでフェラーリとマクラーレンのドライバーが伝統の赤やパパイヤではなく白いスーツを着用したことに強い違和感を示し、「ブランドの一貫性を失えばファンは混乱し、最悪の場合F1観戦をやめてしまう」と強調している。
デイリーは、2013年のアメリカGPで「どの車がルイス・ハミルトンか分からない」と困惑した新規ファンの体験を紹介。識別の手がかりとして勧めたヘルメットの色が、その日に限って変更されていたために説明できず、結局そのファンは観戦を諦めてしまったという。この出来事は「F1の複雑さがファン離れを生む危険」を象徴していると語った。モナコで見られた「白スーツ問題」2025年のモナコGPでは、フェラーリのシャルル・ルクレールとルイス・ハミルトン、マクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリが、チームカラーを捨てた真っ白なスーツで登場した。デイリーは「ブランドを高めるべき舞台で逆に混乱を招いた」と指摘。フェラーリはイタリアの国民的カラーである「ロッソ・コルサ」とともに歴史を刻んできたチームであり、マクラーレンはザク・ブラウンの指揮下でパパイヤ色を復活させ、ブランド力を強化してきた。にもかかわらず、両チームが揃って「個性を消した白スーツ」で登場したことにデイリーは大きな疑問を投げかけている。「エンツォ・フェラーリが築いた赤の伝統を軽んじるような選択は、ファンとのつながりを弱める行為だ。ブランド認知を広げるはずの舞台で、一貫性を欠く演出をしてはいけない」と断じた。ヘルメットカラーも識別不能に問題はスーツだけではない。デイリーは、ドライバーのヘルメットデザインが頻繁に変わる現状も批判する。ルイス・ハミルトンはキャリア初期に「黄色=ハミルトン」という分かりやすいアイデンティティを確立したが、近年は白、黒、紫、虹色と変化し続け、今は再び黄色に戻している。社会的なメッセージ性のあるデザインも評価される一方で、「ファンにとって識別が難しい」という根本的な問題は解決されていない。実際、2022年のフランスGPでは解説のポール・ディ・レスタが、ハースのケビン・マグヌッセンをミック・シューマッハと誤認する場面があった。プロの解説者ですら迷う状況では、新規ファンが混乱するのも当然だ。フェラーリの赤、そしてハミルトンの黄色いヘルメットは、チームとドライバーにとって馴染みあるカラー・ブランディングの復活だフェラーリの伝統と“黒スーツ”の違和感フェラーリの赤いスーツは「勝利の象徴」であり、モンツァのティフォシにとっては特別な意味を持つ。しかし2023年のイタリアGPでは、フェラーリは黒を基調としたスーツを導入。ルクレールが勝利を挙げたものの、スタンドを埋め尽くした赤一色のファンの熱狂と、表彰台に立つ黒いスーツのドライバーの姿はかみ合わず、「フェラーリらしさ」が損なわれた印象を残した。デイリーは「ブランドの色は単なる装飾ではなく、ファンとの感情的なつながりそのもの。これを曖昧にするのは最大の過ちだ」と語っている。過去のドライバーが示した「色の価値」2000年、マクラーレンのデビッド・クルサードとミカ・ハッキネンは、スポンサーの要望に応じて個人のヘルメットカラーを変える代わりに100万ドルの報酬を提示された。しかし二人は揃ってこれを拒否。「色はドライバーのブランドそのもの」という信念を貫いた。デイリーはこのエピソードを引き合いに出し、「当時のドライバーは自らのカラーの価値を理解していた。現代F1はそれを忘れつつある」と警告する。ファン離れの現実11年前にCOTAで出会った女性ファンは、結局F1観戦をやめてしまったとデイリーは振り返る。彼女のように「分かりにくい」という理由で離れていった人々が数多くいる可能性は否定できない。「プロの実況者が混乱するほどなら、新しいファンはさらに苦労する。ブランドの一貫性を取り戻すことは、F1がアメリカやアジアで人気を維持し、さらに拡大するための最低条件だ」と訴えた。