2025年F1カナダGP後、レッドブルはレース終盤のセーフティカー導入時の一連の出来事に関連して、ジョージ・ラッセルに対する抗議を提出したが、スチュワードはこれを却下した。ラッセルはレース終盤、マックス・フェルスタッペンを従えて首位を走行していたが、67周目(全70周)にランド・ノリスがマクラーレンのチームメイトであるオスカー・ピアストリと激しく接触。この事故でノリスはリタイアを余儀なくされ、マシンはコース脇に停止した。
この接触によりセーフティカーが導入され、マクラーレンの回収作業が行われたが、その間に波紋を呼ぶ出来事が起こった。隊列を先導していたラッセルが、セーフティカー中に急ブレーキをかけたことで、直後を走っていたフェルスタッペンが一瞬前に出てしまったのだ。フェルスタッペンはすぐさま無線で「ジョージが突然、攻撃的にブレーキをかけた」とレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼに報告。これに対してランビアーゼは「了解、異常な運転がなかったか確認する」と応じた。一方ラッセルも、レースエンジニアのマーカス・ダドリーに「フェルスタッペンがセーフティカー中に僕を追い越した」と伝えていた。数分後、公式映像にその場面が映し出されたことを受けて、ランビアーゼは再びフェルスタッペンに連絡。「そのラッセルとの件、映像に出ている。マックス、かなり明白に見える。駆け引きに引っかかるな」と注意を促した。このやり取りは、ラッセルが意図的に急減速することでフェルスタッペンを前に出させ、「セーフティカー中の追い越し」を誘発し、ペナルティによってライバルに不利な状況を作り出そうとしたのではないか、という疑念を呼ぶことになった。レース終了後、ラッセルがフェルスタッペンを抑えて今季初勝利を挙げたことを受けて、レッドブルは正式に抗議を提出。訴えの中では「セーフティカー中にラッセルが危険なドライビングを行い、さらにフェルスタッペンが追い越しをしたと主張することで、スポーツマンらしからぬ行為を働いた」と主張された。F1公式映像でも繰り返し取り上げられたこのシーンについて、ラッセル、フェルスタッペン、そして両チームの代表者がスチュワードの元に召喚され、詳細なヒアリングが行われた。しかし、約6時間にわたる審議の末、スチュワードはレッドブルの主張に根拠がないと判断。「抗議には正当な理由がなく、ペナルティを科すべき事実も存在しない」として抗議は却下され、ラッセルのカナダGP優勝は正式に確定した。ヒアリング後に公開された文書には、レッドブルの主張として「セーフティカー導入中、63号車のドライバーが12コーナーと13コーナーの間のバックストレートで不必要にブレーキをかけ、その結果として63号車の直後を走っていた1号車が63号車を一時的に追い越し、その後63号車が加速したことで再び後方に下がった」と記されていた。また、レッドブルは「63号車のドライバーが1号車がセーフティカー中に自分を追い越したと無線で訴えた行為は、『非スポーツ的な意図を示すもの』である」とも主張した。これに対し、メルセデス側の反論も提示された。ラッセルは、「タイヤとブレーキの温度を維持するために、セーフティカー導入中に断続的なブレーキングを行うのは一般的であり、予測される行為だ」と説明した。ラッセルとフェルスタッペンは、抗議に関するスチュワードヒアリングに出席したまた、ラッセルは「今回ブレーキをかけたのには2つの理由があった。第一に、セーフティカーとの間隔を保つため。第二に、ブレーキとタイヤの温度を保つため」と語った。メルセデスはさらに、「63号車のドライバーがチームラジオで発言した内容は、事実を述べただけである」とも主張した。FIAを代表して出席したスポーティングディレクターのティム・マリオンは、この出来事について「レースコントロールが監視しており、スチュワードへの報告が必要と判断されるものではなかった」と説明した。さらに彼は、「セーフティカー中の断続的なブレーキングは一般的であり、予測される行為である」とし、「10台分の車間距離ルールについても、ブレーキングや加速に一定の寛容さを設けている」と述べた。この証拠を考慮したうえで、スチュワードは「ラッセルがブレーキをかけた場所やその程度について、危険な運転を行ったとは認められない」と判断し、「1号車が自分を追い越したと報告した行為についても、非スポーツ的とは認められない」とした。