フェルナンド・アロンソのF1離脱劇は、アルピーヌF1チームによる誤った対応が招いた――そう認めたのは、ルノーCEOのルカ・デ・メオだ。この対応の不備が、結果的にオスカー・ピアストリのマクラーレン移籍という騒動へとつながった。2021年、2年の休養を経てF1に復帰したアロンソは、古巣であるエンストン拠点のアルピーヌF1チームに加入した。彼は2005年と2006年に当時のルノーでワールドチャンピオンに輝き、2008年にも再加入して2勝を挙げており、チームとの関係は深い。
復帰後もその速さは健在で、2021年のカタールGPではチームにとって8年ぶりとなる表彰台をもたらし、レース巧者ぶりを見せつけた。年齢への懸念とピアストリ昇格の狭間でしかし2022年を前にした契約交渉では、チーム側が複数年契約を渋ったことで両者の関係は急速に悪化した。アロンソの年齢を理由に慎重な姿勢を取る一方で、アルピーヌF1チームはジュニア育成ドライバーのピアストリを昇格させる意向も抱えていた。その曖昧な姿勢の中、セバスチャン・ベッテルの引退でアストンマーティンに空席が生じると、アロンソは即座に移籍を決断。アルピーヌF1チームは不意を突かれた格好となった。「彼は素晴らしい人物で、我々のチームから滑り落ちるように去っていった」とデ・メオは『Car and Driver』に語る。「それは我々の過ちだった。彼にもっと敬意ある対応をすべきだったかもしれない。とはいえ、今も良好な関係を保っている」フェルナンド・アロンソの移籍は、フラビオ・ブリアトーレが交渉を担ったことで注目を集めた。ピアストリ発表は“空振り”アロンソの穴を埋める形で、アルピーヌF1チームはピアストリの起用を発表。しかし、実際には契約を正式に結んでいなかった。するとピアストリはSNSでこれを否定し、「来季アルピーヌF1チームからF1に参戦することはない」と声明を出した。その後明らかになったのは、ピアストリがすでに2022年7月4日付でマクラーレンと契約を結んでいたという事実だった。アルピーヌF1チームの発表はその1カ月後だったため、FIAの契約認定委員会(CRB)は完全にマクラーレンの主張を支持。アルピーヌF1チームには契約上の権利が一切ないと結論づけられた。この件でアルピーヌF1チームは、法的費用まで負担することとなり、面目を失った。また、当時の報道によれば、ピアストリには2022年シーズン序盤に正式なリザーブドライバー契約がなかった可能性があり、法務部門の体制不足や内部の連携ミスも露呈していた。結果的に、アロンソとピアストリの両取りを目指した“二兎追う”戦略は完全に崩壊。アロンソは「プロ意識の欠如」に失望して去り、ピアストリも「将来のビジョンが見えない」として離脱した。2025年、明暗分かれる道現在、アロンソはアストンマーティンでエイドリアン・ニューウェイとともに2026年のマシン開発に携わっている。未だ未勝利ではあるものの、F1での存在感は健在だ。一方、ピアストリはマクラーレンで躍進を遂げ、2025年シーズンのドライバーズランキング首位に立っている。「フェルナンドには深い敬意を抱いている。彼は偉大なチャンピオンで、本当に信じられないほどの闘志を持っている」と、デ・メオは称える。「あのようなクルマでも結果を出せるのが彼。アストンマーティンで成功することを心から願っている。彼にはその資格がある」一方、アルピーヌF1チームは現在コンストラクターズランキング下位に沈んでおり、2022年夏に起きた混乱の余波は、今もF1パドックに色濃く残っている。