セバスチャン・ベッテルが2019年F1カナダGPで受けた5秒ペナルティは、いまなお近代F1で最も物議を醸した裁定のひとつとして語り継がれている。ポールポジションからレースを支配していたベッテルは、終盤までルイス・ハミルトンの激しいプレッシャーを受け続けながらも首位をキープ。しかし、48周目のターン3〜4シケインで起きた小さなミスが、結果的に勝利そのものを失う決定打となった。
5秒ペナルティが奪ったフェラーリF1の勝利ベッテルはターン3〜4でマシン後部を滑らせ、芝生へ飛び出した。その後コースへ復帰した際、フェラーリは外側へ流れ、背後にいたハミルトンは接触回避のためブレーキングを強いられた。スチュワードはこれを「危険な復帰」および「他車をコース外へ押し出した行為」と判断。ベッテルに5秒ペナルティを科した。ハミルトンとの差はフィニッシュ時点で1.3秒しかなく、チェッカーを最初に受けたにもかかわらず、優勝はハミルトンのものとなった。当時の裁定はパドック全体で大きな論争を呼び、現在でも「厳しすぎる裁定だった」とする声は根強い。Race. Defining. Moment. #CanadianGP #F1 pic.twitter.com/053sau3we1— Formula 1 (@F1) June 9, 2019 “レースを盗まれた” ベッテルの怒りベッテルの怒りは無線でも隠されなかった。「僕はどこへ行けばよかったんだ?」さらにベッテルは「彼らは僕たちからレースを盗んでいる」と無線で訴えた。レース後のパルクフェルメでも、その感情は収まらなかった。ベッテルは本来の停止位置にマシンを止めず、一度モーターホームへ戻った。その後戻ってきたベッテルは、順位ボードを入れ替える行動に出る。自身の空いたスペースの前に「1位」のボードを置き、ハミルトンのメルセデスの前には「2位」のボードを配置した。それは「本当の勝者は自分だ」という強烈な抗議だった。ハミルトンも複雑だった勝利一方のハミルトンも、後味の悪さを隠さなかった。「もちろん、こういう形で勝ちたかったわけじゃない」とハミルトンは語った。そのうえで「コースへ戻るときは、レーシングラインへそのまま戻るべきではない。安全に復帰する必要がある」と裁定自体には理解を示している。フェラーリはその後、裁定の再審査を求めたものの、スチュワードの判断は覆らなかった。いまも議論が続く“2019年カナダGP事件”この一件は、F1における「レース裁定」と「レーシングの本質」の境界線を巡る象徴的な事件となった。特に近年は“レースを最後まで走って決めるべきか”という議論が強まっており、2019年カナダGPはその代表例として繰り返し引用されている。また、この裁定はベッテルとフェラーリの関係における転換点だったとの見方もある。2019年シーズンのフェラーリは速さを持ちながらタイトル争いを制することができず、ベッテル自身も翌年限りでチームを離れることになった。その意味でも、モントリオールで失われた勝利は、単なる1レース以上の重みを持つ出来事だった。
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