2017年4月16日に行われたFIA世界耐久選手権(WEC)開幕戦シルバーストン6時間レース決勝は、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、アンソニー・デビッドソンの駆るTS050 HYBRID #8号車が、ライバルとの激戦を制して勝利を挙げた。高速コーナーが続く1周5.589kmのシルバーストン・サーキットにあわせてハイ・ダウンフォース仕様を持ち込んだTOYOTA GAZOO Racingは、その戦略が奏功し、前日の公式予選で2台のTS050 HYBRIDがポールポジション並びに2番手とグリッド最前列を占めた。
しかし、決勝レースでは、異なる空力仕様で臨んだライバルに思わぬ苦戦を強いられることとなった。現地時間16日(日)正午に決勝レースのスタートが切られた。最前列から飛び出した2台のTS050 HYBRIDは、序盤、#7号車、#8号車と続き周回を重ねた。#7号車のマイク・コンウェイはひとり1分40秒を切るタイムで逃げ、追走するチームメイトのブエミが駆る#8号車と共にライバルとの差を広げ、開幕戦での勝利を確実にしたかに思えた。しかし、その#7号車をトラブルが襲ったのは、コンウェイが小林可夢偉にステアリングを手渡す寸前だった。トラブルはリアのサスペンションの不具合。これが原因か、#7号車のハンドリングは損なわれ、小林はコースを外れてライバル勢に抜かれた後も反撃に出ることが出来ず、4位確保の走行に徹し、2台揃っての完走、ポイント獲得に集中せざるを得なかった。ところが小林から新しくTOYOTA GAZOO Racingに加わったホセ・マリア・ロペスにドライバー交代が行われた直後、ロペスの#7号車は挙動を乱してコースアウトし、タイヤバリアに激突した。大きなダメージを負った#7号車だったが、エンジニアの無線指示を仰いだロペスはピットまで帰り着き、66分をかけて完全修復されて、代わったコンウェイがレースに復帰した。しかし優勝したチームメイトの#8号車からは38周遅れの総合23位に終わった。コースアウトを喫したロペスはサーキットのメディカルセンターで診察を受けた後、総合病院に精密検査のために運ばれたが、幸いにも特に異常は認められなかった。予選2番手からスタートした#8号車はブエミからデビッドソンに代わってからもトップでリードを保った。しかし、レースが2時間を過ぎた頃に悪化した天候で路面が僅かに濡れ、ライバルはインターミディエイトのウェットタイヤに交換、#8号車はスリックタイヤのままで走行し、一旦は2位に後退。その後天候が回復するとデビッドソンはタイヤ交換にピットへ入ったライバルを尻目に再びトップに躍り出て、中嶋にステアリングを渡した。#8号車のドライバーが中嶋に代わった時点で、#7号車のアクシデント処理のためにセーフティカーが出動。その結果、中嶋の#8号車と2位につけるライバルとの十分なタイム差が瞬く間に縮まってしまった。セーフティカーが退いた時点でレースは残り2時間。TS050 HYBRID #8号車とライバルの間で激しいトップ争いが展開されることになった。TS050 HYBRID #8号車はレースが残り45分になった時点で、最後のピットストップを行い、中嶋からブエミにドライバー交代。#8号車のピットストップでライバルに1位の座を譲ることとなったが、ライバルも最後のピットストップを行い、その時点で両車の差は8秒。そこから終盤戦へと#8号車のブエミの猛追が始まった。そしてレースが残り13分を切った時、TS050 HYBRID #8号車がライバルをかわしてトップに立ち、そのままゴールへ飛び込んだ。不安定な天候、不慮のアクシデント、セーフティカーの出動と荒れたシルバーストン6時間レースだったが、最後に勝利はTS050 HYBRID #8号車の頭上に輝いた。この勝利で、優勝した3人のドライバーには、RAC(英国王室自動車クラブ)から伝統あるツーリスト・トロフィー賞が贈られた。この賞は1905年に創設された英国のモータースポーツ界では最高権威の賞で、タツィオ・ヌボラーリ、グラハム・ヒル、スターリング・モスといったそうそうたるドライバーが受賞している。#8号車の中嶋は日本人として初めてこの賞を受ける栄誉を授かった。チームは、既にル・マン24時間レースの前哨戦ともいえるWEC第2戦スパ6時間レースへと準備を整えている。次戦スパ6時間レースには、初めて3台体制で臨むことになり、ステファン・サラザン、国本雄資、ニコラス・ラピエールの3名がTS050 HYBRID #9号車で出場する。TS050 HYBRID #7号車:(小林可夢偉、マイク・コンウェイ、ホセ・マリア・ロペス)決勝: 23位、159周、ピットストップ6回、グリッド:1番手、最速ラップ:1分39秒656TS050 HYBRID #8号車:(中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、アンソニー・デビッドソン)決勝: 1位、197周、ピットストップ6回、グリッド:2番手、最速ラップ:1分39秒804佐藤俊男 (TOYOTA GAZOO Racing代表とても劇的な決勝レースの展開でしたが、レース中のアクシデントで検査のために病院に行ったロペス選手が無事という一報を受け、まずはほっとしています。予選では圧倒的な速さを発揮することが出来たのですが、決勝レースでのライバルは、さすがに手強い相手でした。チームは最後のチェッカーフラッグを受けるまで全力で戦いました。2台揃って表彰台に上がることは叶わなかったものの、レースで見せたチームの的確な判断力と闘争心、更にダメージを負った#7号車を短時間で完全修復したメカニックの頑張りを誇りに思います。週末を通して見せたハイ・ダウンフォース仕様のTS050 HYBRIDの戦闘力には満足していますが、次戦スパ・フランコルシャン6時間レースに向けて更なる改良を行い、再度ライバルとの激闘を制することが出来るよう全力を尽くします。小林可夢偉 (TS050 HYBRID #7号車優勝した#8号車のクルー全員を祝福します。我々は予選でポールポジションを獲得し、決勝の序盤もレースをリードするなど良いスタートを切りました。しかし、マイクのスティント終盤にサスペンションのトラブルに見舞われ、続く私のスティントでも車両の挙動がおかしくなってしまいました。良い結果が狙えたはずだけに残念です。ただ、我々のパフォーマンスは見せることが出来たので、次のレースで挽回します。マイク・コンウェイ (TS050 HYBRID #7号車#8号車が優勝出来たことを喜んでいます。我々の#7号車は、最初の2スティントは順調でしたが、その後サスペンションのトラブルに見舞われ、感触がおかしくなりました。可夢偉の担当の時にもこのトラブルの影響は続き、ウェットとなったホセのスティントでアクシデントに見舞われてしまいました。彼が無事だったと聞いてほっとしています。その後、懸命な作業でTS050 HYBRIDをコースへ戻してくれたクルーに大変...
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