今季最後のインシーズンテストが、第12戦ベルギーGPが開催されるハンガロリンクで行われる。それに先駆けて、ホンダF1でシステムエンジニアを務める宮本晃成に、プレシーズンテストとインシーズンテストでのそれぞれの目的について話を聞いた。過去には、F1チームは予算が許す限り、レース間に無制限にテストを行うことが可能だった。それが変わったのが2008年で、テストで走行できる距離が30,000kmに制限される。翌年には走行距離がさらにその半分に短縮され、そのあとはインシーズンテスト自体が禁止となった。
2014年、インシーズンテストがFIAにより再承認され、2日間のテストを4回実施することが許されるう。しかしその2年後には再度テストに関しての規則が変更され、4日間のプレシーズンテスト2回に加え、2日間のインシーズンテスト2回が、レース開催直後のサーキットで行われることとなった。「パワーユニットで使用するための新しいアイテムを開発する際は、日本のHRDさくらにあるダイナモでテストを行います。パフォーマンスや特徴を理解するのが主な目的ですね。しかし、ダイナモでのテストだけでは、実際にドライバーがサーキットで走行した際に、期待されるパフォーマンスと信頼性を発揮できるかは分かりません。だからハンガロリンクでマシンを実際に走らせて、性能をチェックする必要があるわけです」と宮本晃成は語る。「シーズン前にスペインで行ったプレシーズンテストでは、トロロッソ・ホンダにとって初のサーキット走行だったため、基本的なデータの収集やマシンの動作チェック、初期性能のチェックなどを行うことが目的でした。今の我々には、シーズン前半戦を戦ってきた中で蓄えた知識と経験があるため、今回のテストではもう一歩進んだ領域でのテストを行えるんです」「ハードウェア面では、いくつかの新しいアイテムのテストを実施する予定です。パフォーマンスを向上させるためのものなのはもちろんですが、マシンに積んだ際、エネルギーマネジメントに影響を及ぼす可能性があるため、その部分の確認を行う必要があります。ソフト面では、過去数戦のデータを元に、エネルギーマネージメントの更なる最適化を進める予定です」2日間のテストはマシンにとってトラック走行をこなす絶好の機会だが、さまざまなテスト項目を期間内にこなすには、効率的に作業を進めていかなければならない。そのためには、パワーユニット側(ホンダ)とシャシー側(トロロッソ)が協力して作業を行うことが必要となる。「パワーユニット側のテスト案に関しては、まずHRDさくらが初期スケジュール案を作成します。それがテクニカルディレクターの田辺さんと副テクニカルディレクターの本橋さんのところに提出され、リスクはないか、スケジュール的に無理がないかをチェックします。実現可能だと判断されれば、我々エンジニアが細かなスケジュールを作成していきます」「スケジュールを作成したら、それをもとにトロロッソのメンバーとテスト項目に優先順位をつけていきます。それぞれの項目の重要性を考慮し、テストする順番を決めていくわけです」「もちろんトロロッソ側にも、シャシー面でテストしたい項目が多くあります。テスト前にはホンダとトロロッソの両メンバーでミーティングを行い、シャシーとパワーユニット両方のテスト項目を合わせた全体のテスト項目を決めていくんです」「チームは、毎レース後にホンダとSTRの両メンバーでエネルギーマネージメントに関するミーティングを行なっています。そのため、トロロッソ側もICEやエネルギーマネージメントに関する理解がありますし、どの部分のテストをしなければいけないかをよく理解しています。そのため、テスト項目の優先順位をつけるのはそこまで難しくはありません」FIAの規則により、F1ドライバーが走行できるのは4日間あるインシーズンテストの2日間のみに制限されている。残りの2日間は、F1への参戦が2回未満のルーキードライバーが担当しなければならない。トロロッソ・ホンダのテストドライバーを務めているショーン・ゲラエルは世界選手権で戦った経験はまだ少ないものの、宮本晃成はそのフィードバックに大きな信頼を寄せていると話す。「ゲラエルがテストで我々のマシンを走行してくれるのは非常にポジティブなことです。レースで速いドライバーと、いい開発ドライバーはときとして別物ですからね。毎レースでマシンを走らせている2人のドライバーからでない、異なる視点からのフィードバックは貴重です。ときには、それが新しい発見につながることもあります」しかし、テストで経験を積めるのは若手ドライバーだけではない。エンジニアもまた、2日にわたるインシーズンテストで貴重な経験値を獲得することになる。今では毎レースホンダF1の一員として働いている宮本晃成もその一人で、初めてホンダでトラックサイドオペレーションに加わったのは、ブダペストで行われたテスト時だったと言う。「ダイナモ担当のメンバーは別の仕事で忙しいので参加できないのですが、ハンガロリンクで行われるテストには、HRDさくらから何人かのエンジニアが加わる予定になっています。普段はサーキットには来ないメンバーが主ですね。インシーズンテストは、エンジニアがトラックサイドオペレーションの経験を積む機会としても用いているんです。トレーニングには絶好の場所ですからね」レースの中では、FIAによって定めされたさまざまな規則や制限を守って走行を進める必要があるが、テストではそうした規則がない。必要であればリスクを取った走行も行い、どこにマシンの強みがあるのかを理解しようと試みることだってできる。「エンジニアにはクリエイティブな視点を持ち、さまざまなことに挑戦すべきだと思っています。テスト中はどんなことでも可能ですしね。ただ、マシンの信頼性と、作業の効率性が最も重要であることに変わりはありません」と宮本晃成は語る。「テスト中に使えるパワーユニットの基数に関しては特に規定はありませんが、時間は限られていますし、効率性は非常に重要な要因になります。新しいパーツのテストにはあらかじめそのパーツを搭載したパワーユニットを持ち込みます。そうすれば、時間をより有効に使うことができますから」「そのため、テスト中にはガレージ内のマシンをスクリーンの後ろに隠すこともしばしばです。レース時よりも機密性は高いと思います」ときには、テスト直前のレースで起きた予期せぬアクシデントにより、最後の最後でテストのスケジュールが変更されることもある。しかし基本的には、テスト用のパワーユニットは前もって準備されていなくてはならないため、数週間前には用意さ...
全文を読む