佐藤琢磨が、インディカー 第10戦 ウィスコンシンのレース週末を振り返った。ロードアメリカで開催されたインディカー・シリーズの一戦で、佐藤琢磨ほど何度も失望を味わったドライバーはほかにいないだろう。今回はこれまでの悪い流れを断ち切る絶好のチャンスになることが期待されたが、ウィスコンシン州に建つ雄大な全長4マイル(約6.4km)のロードコースで久々に開催されたトップクラスのオープンホイルレースで、佐藤琢磨は実に奇妙な週末を過ごすことになった。
No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダに乗る佐藤佐藤琢磨はロードアメリカ戦を17位で終えた。しかし、彼のマシンは決勝中に素晴らしいスピードを発揮、トップ5フィニッシュを果たすかに思えたが、ピットレーンスピードリミッターに起きた不可思議なトラブルのため、2度もペナルティを科せられることになった。ロードコースといえば、ヨーロッパで多くの経験を積んできた佐藤琢磨が得意とするタイプのサーキットだが、佐藤琢磨とフォイト・チームはここ何年も苦戦を強いられてきただけに、今回の展開はとりわけフラストレーションの募るものだった。ロードアメリカで事前にテストを実施するというチームの計画は、テキサス・モーター・スピードウェイで開催された前戦が雨でスケジュールが遅れたのちに最終的に延期となった影響でキャンセルされた。そのことを思えば、佐藤琢磨のパフォーマンスは実に印象的なものだったといえる。プラクティス初日に彼らが示した進歩は、あらかじめテストを実施できたチームに追い付くためにはどうしても必要なことだった。「ロードアメリカはアメリカの有名なサーキットです」と佐藤琢磨。「アメリカでは最高のコースで、世界的に見てもおそらくベストのひとつです。とてもクラシックで、ものすごく速く、驚くほど狭いコースは、木々に囲まれて美しい景観を生み出しています。僕がインディカー・シリーズを戦い始めた2010年には、ロードアメリカでの一戦をカレンダーに復活させたいとの願いを多くの人が僕に語ってくれました。サイド・バイ・サイドとオーバーテイクが多く見られることが、人々の心を掴んで離さなかったのです」「昨年、テストでここを訪れたときにはイギリスのクラシックサーキットが思い起こされましたが、なかでもサンマリノGPの舞台だったイタリアのイモラにはそっくりでした。だからこそ、事前のテストを実施できなかったのは残念でした。いっぽうで多くのチームはテストを行っていたので、僕たちにとっては難しい状況となります。2016年のエアロパッケージでこのコースを走るのは金曜日が最初の機会となり、僕たちは多くのことを学ばなければいけませんでした。75分間のセッション2本では決して十分とはいえません。なにしろ、僕たちはタイアを3セットしか使えなかったのですから。しっかりしたテストを行うにはたくさんのタイアが必要となります。先週、グレアム・レイホールは500マイル(約800km)のテストを行ったそうです!」「けれども、自分が手にしていないものについて嘆いても仕方ありません。そこで初日にはたくさんのことを試しました。土曜日の午前中に行われたプラクティスまでに、僕たちはかなりの進歩を遂げ、マシンの挙動は僕の好みに近づいてきたので、僕は走行を楽しめるようになります。僕たちは8番手のタイムをマークしました。トップ3との差はコンマ2〜3秒ほどで、最終的にはグリップ・レベルにも満足できました。正直いって、ここ何年かはロードコースでのセットアップがあまりよくなかったので、この結果にはとても勇気づけられました」そのことを思えば、予選では後退を強いられたといっても過言ではない。佐藤琢磨は予選グループの8番手に留まり、15番グリッドからレースに臨むことになった。「僕たちはやる気満々でしたが、セットアップに少し問題を抱えていました。コミュニケーションがうまくいかなかったため、僕が期待するようなマシンに仕上がっていなかったのです。このシリーズはいつも接戦なので、3本のメインストレートでスピードが伸びなかったことは大きな痛手となりました。ただダウンフォースが大きいだけでなく、予想よりもドラッグが大きかったのです。順調だったプラクティスの後だったのでとても落胆しましたが、決勝については楽観的に捉えていました」もうひとつ、予想外のことが起きた。激しい雨のために朝のウォーミングアップがキャンセルとなり、佐藤琢磨は一度もフルタンクで走ったことがないままレースに挑まなければいけなくなった。しかもスタートが近づくにつれて路面は乾いていったので、どんな展開になるのか、誰にも予想がつかなかった。最初のピットストップが始まる頃、佐藤琢磨は9番手まで挽回しており、ライアン・ハンター-レイが早めのピットストップを行うと8番手に浮上した。「ターン5に向かう狭いストレートでは、前方に3ワイドや4ワイドになって戦うライバルたちの姿が見えました。しかもスピードは180mph(約288km/h)に達しているんです」 レース序盤について、佐藤琢磨は振り返る。「ひどいホコリとマシンの破片がいくつか舞い上がるのも見えました。スタート直後から素晴らしいレースが繰り広げられていたのです。ロードコースで本気で戦えるマシンを手にしたのは、本当に久しぶりのことでした。僕は思いっきりハードにチャージしていき、たくさんオーバーテイクしました。最高に楽しかったです」「最初はタイアの空気圧を理想どおりに設定するのが困難なため、スタートスティントはどのレースでも苦しいものです。けれども、僕の目には誰もが同じ条件で戦っているように見えました。スティントの終盤にはタイア・デグラデーションに見舞われましたが、僕の症状は比較的軽いようでした」フォイト・チームのメカニックたちが奮闘した結果、佐藤琢磨は8番手となって第2スティントの走行を開始。そして3回目のピットストップが始まる頃にはハンター-レイを追撃していた。「全体のスティントを通じて、僕は最も速いドライバーのひとりで、トップに迫りつつありました。後方にはまったく目を向けず、前だけ見て走ればいいので最高の気分が味わえました。メカニックたちの働きぶりも素晴らしいもので、ピットストップで止まるたびにポジションを上げることができました」そして悲劇は起きた。結果的に4位でフィニッシュするハンター-レイを仕留めた直後、佐藤琢磨にドライブスルー・ペナルティが科せられた。「トップ3が大きく先行していることはわかっていましたが、トップ5フィニッシュは可能に思えました。だから、ピットレーンでの...