佐藤琢磨が、第100回 インディ500のレース週末を振り返った。ときには、フィニッシュできなかったことが本当に辛いレースがある。とりわけ、それが記念すべき第100回のインディ500で、好結果が期待できそうな状況であればなおさらだろう。しかし、残り36ラップ、あと100マイル(約160km)に満たない距離を走りきればいいだけになったとき、佐藤琢磨の身にまさにそんな不運が降りかかった。
「僕たちは本当に速く、とてもいい結果が得られそうでした」と佐藤琢磨。「言葉では言い表せないほど残念な結末でした」インディGPが終わると直ちに、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシングはNo.14 ダラーラ・ホンダをスーパースピードウェイにあわせてアジャストする作業を開始した。例年どおり、日程的にはとても長いように思えても、それは文字どおり時間との戦いだった。「僕たちのマシーンは、見た目は昨年とあまり変わっていませんが、たくさんの作業をする必要がありました。ホンダはスーパースピードウェイ用に新しいフロントウィング、フロントウィングの翼端板、リアウィングレットなどを持ち込みましたが、最大の変更点は、ドーム型スキッドの使用が全員に義務づけられたことにありました」2015年に深刻なアクシデントがいくつか発生したことを受け、インディカー・シリーズは従来のステップ型フロアの使用を取りやめることを決める。より大きなダウンフォースを生み出すステップ型フロアは、サイドウェイを起こしたときにマシーンが空中に舞い上がる原因になると考えられたからである。しかし、チームにとって容易ではなかったのは、チタン製スキッドブロックに加えて車高を9mm高くされた点にあった。「ダウンフォースが大幅に減るのはもちろんですが、それとともに重心が上がってしまうことが問題でした。おかげで非常にドライブしにくいマシーンになり、プラクティスが始まる1ヵ月前には安全を確認するためのエアロテストが実施されることになりました」このテストの結果、インディカー・シリーズはディフューザーのサイドウォールに長さ9mmのエクステンションを追加することを認めたのである。「車高が上がったことで、空力的にも機械的にも性能低下を招くことになりました。おかげで、エアロマップを完全に作り直さなければなりませんでした。これは大変な作業です。そこで、一部のチームは風洞実験を行ったようですが、僕たちはできませんでした。しかし、このため僕たちが考える以上に大変な状況となったのです」プラクティス1週目の火曜日は雨のためにセッションが中止となり、さらに困難な状況となった。「1週間もプラクティスがあると皆さんは思われるでしょうが、結果的には2日半しか走れませんでした。これでは、とても十分とはいえません! マシーンの傾き具合、車高、スプリングのパッケージ、ジオメトリー、アライメント、ウィングのセッティング……、やらなければいけないことは山のようにあります。3チーム体制で臨んだことは大きな助けになりましたが、それでも時間が足りず、たくさんのテスト・プログラムを見送ったほか、木曜日にはレース用のセットアップ作業に取り組みました。翌日はファスト・フライデイで、予選用の高いブースト圧を使うことになるため、さらに難しい状況となります。ダウンフォースを減らすと、マシーンは少しナーバスな挙動を示すようになりました。メカニカル・グリップを高めたいところでしたが、なかなかうまくいきませんでした」予選前に行われた土曜日のウォームアップも満足できる内容ではなかったため、佐藤琢磨らはひとつの重大な決断を下すことになる。「セットアップの方針を根本的に変更することにしました。特に僕のマシーンは大胆な見直しを行いましたが、これは大成功でした。気まぐれな風が吹き荒れ、気温は高いというチャレンジングなコンディションでしたが、チームとエンジニアたちは素晴らしい仕事をしてくれました。コンディションの変化に伴い、予選で苦戦する上位陣が少なくなかったので、僕たちはさらに進歩しなければいけないと考えていましたが、ここでいい結果が残せたのは本当によかったと思います。チーム全員で努力した結果、4列目の12番グリッドを獲得。プラクティスでの状況を考えれば、チームは驚くべき仕事をしてくれたといえますし、僕はこの結果に心から喜んでいました」そこからチームはさらなるセットアップの煮詰めに取り組んだ。月曜日には大きく前進できたものの、金曜日に行われたカーブデイではマシーンのバランスに問題が見つかり、月曜日に果たした進化の半分ほどを逆戻りしなければならなくなった。そして決勝レース、佐藤琢磨は好スタートを切ったものの、最初の数周でポジションを7つも落としてしまう。しかも、レース前半の間は同様のことが繰り返し起こり、さらに順位を落とすことになった。「最初の100周は、まるで悪夢のようでした。スタート直後はそれほど悪くありませんでしたが、すぐにひどいアンダーステアに悩まされるようになります。気温は華氏90度(約32℃)近くもありました。その為、僕たちはダウンフォースを増加して挑むことにしましたが、グリッド上に並んだマシーンを見ると、その多くが僕たちよりもダウンフォースを大きめに設定していました。そこで僕たちはプラクティスのときよりダウンフォースを増やすことにしたのです。アンダーステアはひどく、この症状は最初のスティントの間、ほとんど変わりませんでした」第2スティントでは、タイヤ空気圧の調整とフロントウィングのダウンフォースを増やすことで症状はいく分改善されたものの、それでもアンダーステアはしつこくつきまとった。第3スティントではさらに調整を行ったものの、その傾向に変化は見られなかっただけでなく、逆にスタビリティを著しく失う結果に発展。そして第4スティントではマシーンがさらに不安定になってしまったのである。「このくらい症状が重いアンダーステアであれば、さぞかしリアのグリップは安定していたと思われるでしょうが、実際にはそんなことはありませんでした。スタビリティを失ったマシーンはとても不安定な動きを見せると同時に、トラフィックのなかではアンダーステアが大幅に増加し、まるでスロットルを踏めませんでした。おまけにストレートではドラッグが大きいことが災いし、たくさんのドライバーが僕を追い抜いていきました」この後、佐藤琢磨は中団を走るドライバーから優勝争いを演じる有力ドライバーへと変貌を遂げることになる。「大胆な変化が望ま...
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