KERS搭載チームのひとつであるルノーF1チームが、KERSの構造や仕組み、KERSの原理を解説した。KERSとは基本的になんですか?では定義から始めよう。KERSとは、Kinetic Energy Recovery System(運動エネルギー回生システム)のことで、F1のエンジニアリングを環境にやさしい技術を開発する方法に向けるべくFIAによって導入されたものだ。運動エネルギーとは、運動中に蓄えられるエネルギーで、その運動を止めるために必要なエネルギーと考えることができる。例えば、自転車、自動車、列車などを止めることは、その運動エネルギーをすべ...
最も一般的な運動エネルギーは、摩擦ブレーキによって取り除かれているものだ。運動エネルギーを熱エネルギーに変えるので、地球の温度を少しだけ上げていることになる。KERSによって、そのエネルギーは失われることなく、バッテリー(化学エネルギー)、フライホイール(機械エネルギー)、蓄圧器(油圧エネルギー)などに蓄積され、マシンの駆動のために利用される。蓄積されたエネルギーは、その後エンジンに馬力を追加するために再利用される。レギュレーションでは1周あたりのKERSの最大出力は60kW、エネルギー放出は400kJと規定されている。簡単に言うと、各周回につき6秒あまりの間60kWをマシンの「ブースト」に使うことができる。ルノーがバッテリー方式を選んだ理由は?KERSプロジェクトが始まったときに最優先事項となったのは、可能な限りのエネルギー蓄積ソリューションを研究することだった。バッテリーと純粋な機械的フライホイールのどちらか選ぶには非常に難しかったが、バッテリーの方が有望であり、今後10年間にわたってこの技術を乗用車に応用できる可能性があった。ルノーのKERS装置は、最先端のバッテリー・ソリューションを提供してきた実績のあるフランスのSAFT社製のリチウムイオン電池の化学的蓄積方法を採用している。その次はどうなるのですか?KERSが完全なシステムになるためには単にエネルギーを蓄積するだけでは足りない。運動エネルギー、電気エネルギー、化学エネルギーの各種の形態どうしを「変換」しなければならない。このエネルギーの「変換」は、マシンの運動エネルギーを電気エネルギーに変えたり、その逆を行う電動発動機ユニット(MGU)が担当する。しかし、このような変換装置は通常50kg程度の重量があり、多くのスペースを必要とする。これはF1チームがどんなことをしても避けたいことである。したがって、MGUをできるだけ軽量化することが重要であり、そのためにマニエッティ・マレリの協力を得て、我々のニーズにあった小型かつ軽量のソリューションを生み出すことができた。ただ、ブレーキングと加速時の6秒あまりの間だけ活性化すればよいので、結果としてMGUは非常に小さなものになった。それ以外の時間は稼動時の熱を発散している。KERSシステムの効率が上がれば、熱の損失は少なくなる。ルノーF1のシステムは、後車軸のエネルギーを電気に変換してバッテリに蓄積し、再びバッテリから取り出して後車軸にエネルギーを供給するという1サイクルの効率として70%以上を達成している。ファンにとってKERSの意義は何でしょう?1周あたり400kJに制限されている60kW(80馬力に相当)のブーストは、ラップタイムを0.2〜0.3秒短縮させる。マレーシアGPでのフェルナンド・アロンソとネルソン・ピケのスタート(それぞれ6番と4番順位を上げた)で証明されたように、スタンディングスタートでのこのシステムの使用には明確なメリットがある。しかし、KERSを最大限活用するためには、システム全体をできるだけ軽量・小型にする必要がある。そうでなければこのアドバンテージはすぐに失われてしまう。各チームのシステムの重量は極秘だが、不要な10kgが加わるたびに1周あたり0.35秒遅くなることを考えれば、多くのマシンが冬の間にダイエットに励んだのも当然である。実際には、縦方向(フロントとリア)だけではなく垂直方向の重量配分など、さらに多くの微妙な影響が理論的には0.2〜0.3秒のラップタイム短縮の達成を妨害する。これらの影響をよく考えないと、KERSによるラップタイムのポテンシャルを簡単に全て失ってしまう。しかし、理想的なソリューションを手に入れ、マシンを正しくセットアップすれば、エンジンへの60kWのブーストは、オーバーテイクを助けるだろう。少なくともKERS搭載マシンと非搭載マシンの間ではね。もちろんKERSはまだ開発の初期段階にあり、チームはレーシング・ツールとしてKERSの最適化を学習中なので、アドバンテージはシーズンが進むにつれより明確になってくるだろう。関連:KERS