レッドブル・レーシングがF1マイアミGPでマックス・フェルスタッペンのマシンに投入した新型フロアは、車体全体のダウンフォース増加を狙った一般的な開発の一環であり、今季レッドブルF1が抱えるバランスの問題を直接的に改善することを目的としたものではなかった。現在もその問題に対処する開発プログラムは継続中であり、RB21をより扱いやすく、幅広い種類のコーナーで安定したバランスを保てるクルマに仕上げることが目指されている。
この課題に関連したアップデートの一部は、次戦イモラで投入される見込みだ。RB21は、2023年シーズン終盤の教訓をもとに設計されており、コーナー進入(ターンイン)からミッドコーナーにかけてのバランス変化を抑制することが設計思想の根幹にある。フェルスタッペンが得意としてきたアグレッシブな初期回頭は、現世代のグラウンドエフェクトカーでは再現が難しい。こうしたマシンはアンダーフロアによるダウンフォースの最大化を主眼に開発されているためだ。ブレーキング時には空力中心(エアロセンター)が前方に移動し、鋭いターンインが可能になるが、ブレーキを離して車体が水平に戻ると空力中心は後方へと移動し、結果としてミッドコーナーでアンダーステアが生じやすくなる。レッドブルRB21の核心課題:空力中心の移動が生む「低速アンダーステア」RB21では、とりわけ低速コーナーでこのバランス変化を緩和することを目指している。ただし、バランスの一貫性は前型に比べて改善された一方で、初期の回頭性は損なわれており、フェルスタッペンは低速域でのアンダーステアとブレーキ性能への不満を繰り返し口にしている。今回マイアミで投入された新型フロアは、トンネル入口のフェンス位置と形状を調整し、よりカンバ角のついたフロアエッジミニウイングを組み合わせることで構成されている。これにより、バランスを大きく変えることなく、わずかながらダウンフォースを増加させる狙いがあった。「非常に安定している」と語ったのは、レッドブル・レーシングのトラックサイド・エンジニアリング責任者ポール・モナハンだ。「我々の判断では、フローの安定性に変化はない。つまり、空力的に不安定になるとは考えていない。これにより数キロのダウンフォースを得られるので、その恩恵を享受することになる」つまり、バランスの問題を悪化させることなく、トータルのダウンフォースを増加させる“無難な強化策”だったといえる。フェルスタッペンは今季3度目のポールポジションを獲得したが、それが即座に飛躍的な進化を意味するわけではないと慎重な姿勢を示す。「制限は以前と同じだ。このフロアは悪くないが、高速コーナーでは速くても、低速ではまだアンダーステアが出る。完全には解決していない。トップ争いをするには、もう少し必要だ」決勝では、これまでのレース同様にブレーキの問題が再び浮き彫りとなった。フェルスタッペンはオスカー・ピアストリからの攻撃を受けてターン1に浅い角度で進入したが、ブレーキングでイン側の前輪がロックし、ラインを外れてポジションを失った。この動きはブレーキに大きな負荷をかけるものだったが、彼が期待していたほどの制動力は得られず、無線では「またブレーキだ」と不満を漏らしている。この問題とターンイン時のアンダーステアは、極端なミッドコーナーでのバランス変化を抑えた代償とも言える。RB21は、他の現代F1マシン同様にフロントサスペンションに強いアンチダイブ特性を持っており、これによりドライバーはブレーキペダルを通じた微妙なフィーリングを掴みづらくなる。フェルスタッペンは、特にタイヤ温度が高い状況で「感覚が鈍くなる」と訴えている。マイアミでフェルスタッペンと角田裕毅のマシンに使用された、新しい(上)と旧型のレッドブルのフロアの比較RB21は、RB20とは異なる意味で“難しい”マシンとなっており、実際マイアミGPでは角田裕毅も予選中にフロントタイヤのロックに悩まされていた。レッドブルF1のチーム代表クリスチャン・ホーナーは、チームがこの問題を以前より深く理解できるようになってきたと語る。ただし、それはシミュレーション上で明確には現れず、実際の走行データに依存しているという。「根本的には空力の問題だ。今後はその解決策を実行に移す段階だ」この問題に対処するための開発は、次戦イモラで投入される可能性がある。ただし、モナハンは過度な期待には警鐘を鳴らす。「これは一発で解決できるようなものではない。段階的に改善していく必要がある。我々は問題の本質を理解しているが、それを実際に修正するのは簡単ではない。完全に解消されない可能性もある。ただし、その影響を軽減し、ラップタイムを向上させることは可能だ」結局のところ、重要なのはライバルたちとの開発競争の中で、いかに素早く・効果的に対処していけるかという点に尽きる。
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