F1 70周年記念GPでレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが、メルセデスを寄せ付けずに圧勝することを予想していた人はどれくらいいただろうか。前戦F1イギリスGPでは、レース終盤のメルセデスのタイヤトラブルも手伝って2位表彰台を獲得したマックス・フェルスタッペンだったが、予選では1秒差をつけられ、決勝でもレースペースではまったく歯が立たなかった。
同じシルバーストンで連戦で開催されるF1 70周年記念GPでも、その状況は変わっていないように見えた。フリー走行でもメルセデスに常に大差をつけられ、予選でも再び1秒差をつけられただけでなく、レーシング・ポイントのニコ・ヒュルケンベルグに上回られ、ルノーのダニエル・リカルドにも僅差で迫られた。Q2を唯一ハードタイヤで通過するという決断も万策尽きたなかでのセーフティカーの導入にかけた捨て身のギャンブルのように感じられた。だが、今になって思い返せば、不思議とレッドブル・ホンダから序盤戦で繰り返されていたRB16の空力バランスの話は聞こえてこなかった。予選後、マックス・フェルスタッペンは「僕らにはメルセデスのように予選モードはないけど、ここまでレースペースでは競争力を発揮できている」と語っている。レース後、レッドブルもホンダもマックス・フェルスタッペンの予選が素晴らしかったことを強調している。チームからそのようなコメントはないが、予選でのフロントローは念頭にいれず、レース重視のセットアップを進めてきたと考えて間違いはないだろう。一方、メルセデスのセットアップは間違った方向に進んだ。前戦でのタイヤ問題を受けて、ピレリは1段階柔らかいアロケーションの前後のタイヤの内圧を上げた。メルセデスもダウンフォースを削り、通常よりもサスペンションを働かせるセッティングを施した。フリー走行ではメルセデスらしからぬマシンがロールする様子が見て取れた。だが、気温の上昇、柔らかいタイヤ、高いタイヤ圧といった要素はメルセデスのタイヤを蝕んだ。両方のドライバーともに5周もすればタイヤにブリスターが発生した。ハードタイヤスタートという選択も当たりだった。レース前のピレリの想定では、ハードスタートは最速のタイヤ戦略ではなかった。メルセデスのF1チーム代表を務めるトト・ヴォルフもハードスタートは「ポジションを維持するのが非常に困難になるだろう。そのタイヤであまり粘ることができなければ、戦略的なアドバンテージは得られない」と語っていた。だが、ここで差を生み出したのがマックス・フェルスタッペンだ。スタートで簡単にニコ・ヒュルケンベルグを交わすと、メルセデスの2台にしっかりとついていった。そして、メルセデス勢のタイヤが傷んでいることを目にすると、チームからのバックオフしてタイヤを労われとの指示を無視して、1秒以内でルイス・ハミルトンを追いかけた。「おばあちゃんのようにただ座っているわけにはいかない。プレッシャーをかける機会だったのでそうしたかった」とマックス・フェルスタッペンは攻めの姿勢だった。結局、メルセデス勢は13周目と14周目にピットインしてコース上では追い抜くまでには至らなかったが、ハードタイヤでのスタートでの利点を生かしてマックス・フェルスタッペンはスティントを伸ばしていく。そして、通常とは異なる展開に気づく。13秒後方でコースに復帰したバルテリ・ボッタスは差を縮めるどころか広がっていく。数周でブリスターが発生していたのだ。フェルスタッペンは毎周0.5秒速いレースペースで差を広げていく。26周目、マックス・フェルスタッペンがピットインしてミディアムに交換。3.2秒とやや時間がかかり、ボッタスの後ろでコースに復帰するが、その周ですぐにリードを奪い返す。ルイス・ハミルトンが「フェルスタッペンの内圧低いんじゃないの?」と疑うほど、タイヤの状態に差がある。とても高速コーナーでアンダーステアを訴えていたマシンとは思えない安定性だ。そして、32周目にマックス・フェルスタッペンとバルテリ・ボッタスは同じタイミングでハードタイヤに交換。ここで勝負はついた。暫定トップでステイアウトしていたルイス・ハミルトンもセーフティカーの出動を期待して引っ張ったが、タイヤ交換で前に出ることができる9秒以内にマックス・フェルスタッペンに入られて42周目にピットイン。4番手でコースに復帰してファステストを出しながらシャルル・ルクレールとバルテリ・ボッタスを抜くも、マックス・フェルスタッペンには11秒届かなかった。メルセデスの自滅といったレースではあったが、暑いコンディションでメルセデスの競争力が減少することはレース前からレッドブル・ホンダ陣営が語っていたこと。戦略という“実力”で勝利した一戦だった。
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