2026年F1でドライバーから不満が相次いでいるタイヤの最低空気圧について、ピレリが後半戦から引き下げを可能にする規則変更を提案したものの、F1チーム側の反対によって実現しなかった。FIAは提案された安全対策を実施可能と判断していたが、規則変更に必要なチームの特別多数を得られなかった。The Raceによれば、現在の高い最低空気圧は2026年シーズン終了まで維持され、2027年も継続される可能性が高いという。
2026年F1で高まるタイヤ空気圧への不満2026年F1でドライバーから繰り返し指摘されている問題のひとつが、ピレリによって指定される最低タイヤ空気圧の高さだ。高い空気圧によってタイヤから得られるグリップが低下し、マシンが扱いにくくなっているほか、コーナー進入時にはホイールロックも起こりやすくなっている。さらに、状況によってはタイヤを適切な作動温度まで上げることが難しく、その一方でスティントを通じてタイヤを労わることも難しくなっている。ハースのオリバー・ベアマンは今年のF1スペインGPで、その感覚を「風船」に例えて不満を口にしていた。「今はタイヤの中にものすごくたくさんの空気が入っていて、本当に悪夢だ。デグラデーションも大きいし、1周だけでもかなりオーバーヒートする」「右足の下にはものすごいパワーがあるのに、グリップはほとんどない。タイヤが巨大な風船みたいだからだ」高い空気圧はアクティブエアロの安全対策2026年の最低タイヤ空気圧は、サーキットの特性によって異なるものの、2025年と比較して3~4psi程度高く設定されることが多い。その背景にあるのが、2026年からF1に導入されたアクティブエアロダイナミクスだ。現在のF1マシンは、ストレートでドラッグを減らす「ストレートモード」と、コーナーでより大きなダウンフォースを発生させる「コーナーモード」を使い分ける。このダウンフォース量の変化によって、タイヤが受ける垂直荷重も大きく変動する。ピレリが特に警戒しているのは、アクティブエアロに故障が発生し、ウイングがコーナーモードのまま固定されるケースだ。高ダウンフォース状態のままストレートを高速走行すれば、タイヤには極めて大きな荷重が加わる。空気圧が低すぎれば最終的にタイヤが破損する危険性があるため、現在の高い最低空気圧はアクティブエアロ故障時に備えたフェイルセーフとして設定されている。ピレリが提案した「5周後にオレンジボール旗」ドライバーからの不満を認識していたピレリは、2026年シーズン後半から最低空気圧を引き下げることを可能にする新たな規則を提案した。その内容は、アクティブエアロが故障してストレートモードを使用できなくなったマシンについて、コース上を走り続けられる時間を制限するというものだった。具体的には、マシンがコーナーモードに固定された状態で5周走行した場合、ドライバーに黒地にオレンジ色の丸が描かれた旗、いわゆるオレンジボール旗を提示する。これはマシンに危険な状態や機械的問題があることをドライバーに知らせるための旗で、提示されたドライバーはピットに戻らなければならない。問題を修復できなければ、そのレースを続行することはできない。このルールが導入されれば、高ダウンフォース状態のマシンがストレートを長時間走り続けるリスクを排除できる。そのためピレリは、現在想定している最悪のケースを基準にタイヤ空気圧を設定する必要がなくなり、ドライバーが求めていた水準まで最低空気圧を引き下げることが可能になると考えていた。早ければ夏休み明け最初のレースとなるF1オランダGPから導入することも可能だったという。FIAは実施可能と判断もF1チームが拒否FIAは、ピレリが提案したオレンジボール旗を使用する方法について実施可能と判断していた。しかし、シーズン途中で規則を変更するにはF1のガバナンス手続き上、チームから特別多数の支持を得る必要がある。実際に協議が行われたものの、必要な支持には届かず、過半数のチームが変更に賛成しなかった。一部のチームは、シーズン途中で最低空気圧を変更すれば競争力に影響を与える可能性があるとして反対したとみられている。また別のチームからは、アクティブエアロに故障が発生しても走行を続けることが可能であれば、マシンを最後まで走らせてポイントを獲得するチャンスを残すべきだとの考えもあったという。新ルールではアクティブエアロが故障して5周が経過すればピットインを余儀なくされるため、本来なら走り切れる可能性があるマシンの好結果が自動的に失われることへの懸念があった。ピレリ「多数派は高い空気圧の維持を決めた」チーム側から必要な支持を得られなかったことで、現在の高い最低タイヤ空気圧は2026年シーズン終了まで継続されることになった。さらにThe Raceは、2027年も同様の状況が続く可能性が高いとしている。ピレリのチーフエンジニアを務めるシモーネ・ベッラは、ドライバーが変更を求めていたにもかかわらずチームが提案に反対したことについて、「特に驚いてはいない」と語った。「多数派は、より高い空気圧を維持することを決めた。僕たちとしては、それで問題ない」「高い空気圧にしている理由がストレートモードの状況にあることは、これまで何度も説明してきた。実際には、それほど頻繁に起きる状況ではない」「僕たちにとっては、タイヤ空気圧を決める際にどの手順を考慮するのかという問題にすぎない。そして僕たちは、最悪のシナリオを基準にする」2025年水準まで引き下げることも可能だったベッラによれば、オレンジボール旗を使用する新ルールが導入されていれば、タイヤ空気圧を2025年と同程度まで戻せる可能性があった。アクティブエアロ故障時のリスクを考慮する必要がなくなった場合、どの程度空気圧を変更できるのかと問われ、ベッラは次のように答えた。「かなり大きな差になる可能性がある。基本的にはサーキット次第だ。フロントとリアで、およそ1~3psiの範囲で下げられる可能性がある」「リアについては、さらに下げることも可能だろう」2026年F1の高いタイヤ空気圧は、通常走行時の要求ではなく、アクティブエアロが故障した際の最悪のケースを想定した安全策という側面が大きい。ピレリはその前提を変える具体策を提示したものの、競争力への影響や故障時のレース続行を重視したチーム側の支持を得られなかった。結果として、ドライバーが求めていたタイヤ空気圧の引き下げは少なくとも今季中は実現しない。ピレリが安全上の前提を変更できない以上、2027年に向けても高い最低空気圧がF1の課題として...