マクラーレンF1が導入したとされる革新的なブレーキ冷却技術が、FIAによる技術指令の発行により注目を集めている。エミリア・ロマーニャGP直前の5月12日、FIAは2件の技術指令を発行。そのうちの1つが、ブレーキ冷却に関するものだった。マクラーレンは今季、ブレーキドラム内に「PCM(相変化材料)」を用いる高度な冷却技術を採用していたとされる。これはブレーキング時に発生する熱がタイヤに伝わるのを防ぐ仕組みで、タイヤ温度の安定化に大きな効果をもたらしていたと見られている。
しかしFIAはこの冷却構造に対して、ブレーキチャネル内の「内部容積を変化させる素材の使用を禁止する」という明確なガイドラインを示した。これは、素材が温度変化に応じて形状を変え、空気の流れを変化させる場合、事実上「アクティブ・エアロダイナミクス」と見なされるため、技術規則に違反する可能性があるというものだ。事実上のPCM制限へ 競争をめぐる疑念と検証この技術指令は、明示的に「PCM」を名指ししているわけではないが、温度によって体積や状態が変化する相変化材料は、定義上この禁止対象に含まれると解釈される可能性が高く、実質的には「PCMの使用制限」と受け止められている。この背景には、レッドブルがFIAに対して正式に疑義を申し立てたことがあると報じられており、マクラーレンの技術が競合チームの注目を集めていたことを示している。FIAはマイアミGP後を含む数回にわたりマクラーレンのシステムを調査。その結果、現時点で同チームの設計は規則に適合しており、違反は確認されていないとした。スポークスマンも「F1ではブレーキやタイヤの冷却に使用できるのは車両の前進による気流のみであり、液体や相変化素材の使用は認められない」と明言している。この対応についてマクラーレン代表アンドレア・ステラは、「我々のシステムは技術指令の範囲内に収まっており、MCL39のパフォーマンスに影響はない」とコメント。現在の設計は合法とされた一方で、FIAによる今回の指令が、今後の設計自由度に大きく影響を与える可能性があることも事実だ。冷却技術は現代F1においてパフォーマンスを左右する重要要素であり、今回の事例は各チームに対し、設計の境界線がより明確になったことを示す形となった。